それはきっと甘やかな呪縛

はじめに
とるにたらないもの、しかし、なくてはならいかけがえのないもの。五条悟と彼に助けられた女子校教諭が隔てた世界を超えて手を伸ばす。
呪術師としてしか生きる道のない五条と呪術師として生きる道のない一般人。最強だけど、最強じゃない、ただの一人の男として見てくれる存在に救われる反面、そんなものは要らないと突き放して。けどやっぱり、自分の欲には抗えない。アンビバレンスな28歳五条悟と、仮面を被ることが上手い女性の話。

【注意】
原作にはない場面の捏造や筆者独自の解釈が含まれます。また、原作の表現を超えませんが、流血および残虐な描写を含むことがありますので苦手な方はご注意下さい。
なお、実在する著名人やお菓子、場所について言及する箇所がありますが当然ご本人さまや関連会社・自治体・および管理団体さまなどとは一切の関係はありません。フィクションと理解したうえでお読みいただけると幸いです。

【夢主の設定】
都内の女子中高一貫校の養護教諭。大学時代は心理学専攻。甘いものが好きでよくお取り寄せをしている。五条との出会いは校内で起きた呪霊事故。絶体絶命の危機に陥っていたところを彼に助けられ、九死に一生を得る。それから彼を「救世主」と称し、なんだかんだと付き合いが続いている。
デフォルト名「黛 春子(まゆずみ はるこ)」

時間軸は原作一巻開始直前の四月~六月。知識的には単行本0巻で起きたことを踏まえてあるとわかりやすいかもしれません。

 

  • 第一話 きみは救世主

     コンと窓を打った音にはパソコンを閉じてふらりと窓辺へ寄った。「こんにちは、五条くん」 いつもどおり窓から現れた男に鍵を開けてやる。白銀の光に透き通るきれいな髪と、それとはうらはらに全身黒ずくめの様相は、いかにもこの真昼の学校にはそぐわない…

  • 第二話 ぼくは救世主

     という人間は、おおむね人畜無害という言葉が当てはまると五条は思った。 あたかもすでにそこにいましたという、空気のような存在の女。しかし空気というのは厄介で、先に称した人畜無害という言葉とはほど遠い。なぜなら、空気がないと人間は生きられない…

  • 第三話 彼女の城

     養護教諭の朝は早い。というより、教員の朝は早い。始業は一応、八時二十分という生徒の登校時間と同じ時間になっているが、その時間につけばいいわけではないのが教員というものだ、朝練をしている部活もあるし、朝早くに委員の仕事がある生徒もいる。ある…

  • 第四話 止まり木を手放した鳥

    「あ」 不意に二つの声が重なった。 吾輩は学校の外に出るとまったくの別人である、と、かの高名な夏目漱石も言ったかどうかは定かではないが、この日のも普段の教諭の皮を脱ぎ去り、その多分にもれず大都会東京に溶け込む一人の若者となっていた。 一方で…

  • 第五話 消えない熱、色を変える世界

    「伊地知、あのパンケーキ屋のことだけど」 裏原と呼ばれる表参道から原宿までの側道を原宿に向かって進みながら、五条は携帯を耳に当てる。 ワンコールで出た高専職員に矢継ぎ早に告げると、電話の相手はおののくこともなくこれまた端的に彼の要件を呑み込…

  • 第六話 秘密の逢瀬とラムボール

     日常はつつがなく過ぎていく。 五条と会ってから一週間、二週間と過ぎ、もう彼は来ないのだろう、とは半ば諦めていた。しかし厄介なことに、の中の淡い憤りに似た違和感はどんどん大きく膨らんでいくばかりだった。 かつて、電話もインターネットもなかっ…

  • 第七話 駆ける彗星

    「甘いものたべる?」 気を取り直すと、は棚からクッキー缶を取り出しながら五条に声をかけた。 以前、岐阜から取り寄せていたクッキーだ。五条は背もたれから体を起こした。「ん。てか、これ食べていい? めちゃくちゃ僕のこと誘ってきてるんだよね、この…

  • 第八話 飛び続ける

     私立渋谷煌心女学園における一級呪霊特殊事故の被害について  負傷者三名、うち一名、重傷。  以下、被害者リストである。 教諭     東京都板橋区⬛︎⬛︎5-10-3    メゾン・リュミエール205号    電話番号 03ー■■■■ー■…

  • 第九話 アロワナのまなざし

     どんなことがあろうと、日はまた昇る。それがおよそ二十数年生きてきた中で一番よく学び実感してきたことだろう。苦虫を噛み潰し、また辛酸を舐めるような夜があっても、目を閉じれば朝はくる。はたまたやさしい夢や腕に包まれていたとしても、時は決して人…

  • 第十話 無知の天国、地獄の全知

     その後も可となく不可となく異性間交流会は続き、二次会に向かうかどうかという話題になったところではふたたび席を立った。「後藤さん、どう?」 鈍く光を反射する鏡面に並び立ったのは本日の案内人である先輩だ。にやにやと笑いながら、肘でを小突いて、…

  • 第十一話 唯一の風

    「二十二分と三十六秒、思っていたよりも早かったですね」 淡々と出迎えたのはロックグラス片手に優雅に脚を組む七海であった。「そう?」五条は軽い口ぶりでそれに答えながら前に座る。個室を囲う水槽には熱帯魚たちが悠々と泳いでいた。「それで、上の様子…

  • 第十二話 楽園の向こう側

     の気分はまさにどん底だった。これまでこんなにも落ち込んだことがあっただろうかというほど、彼女の気持ちは深く海底に縛り付けられ、泥濘に埋まる貝のごとくそこから一切動き出すのを拒んだ。今まで早ければ二十分で済んでいた朝の支度もその倍以上はかか…

  • 第十三話 立ち籠める暗雲

     妙な胸騒ぎがした。心臓のうねりは全身に巡り、背中の傷を疼かせる。職場に帰ったは職員室の新聞を一ヶ月分広げた。「先生?」 体育担当の男性教諭が新品のバレーボールを片手にやってくる。これから部活があるのだろう。すっかり部内ジャージを羽織ってい…

  • 第十四話 夜の再来

    「では五条さん、本日はこれより山梨での任務がありますので、そろそろ……」 高専職員室で机に脚を載せて自堕落に過ごしている五条に声を掛けたのは、補佐監督の伊地知であった。事務処理能力は特級のはずなのに、すっかり上司に振り回されることに慣れてし…

  • 第十五話 救世主はいない

     肉塊や血溜まりを踏み、散らかったデスクの間を駆け、窓口を乗り越える。改札にはそこかしこに人間だったものが落ちていた。「先生、こっち!」 少女の眼を頼りに駆け抜ける。「こん、の、クソアマァァアッ」 背後で衝撃音が響いた。咄嗟に振り返る。先ほ…

  • 第十六話 希う

     京王井の頭線神泉駅における呪詛師による立て篭もり殺傷事件について 発生日時 2018年■月■■日 発生場所 京王井の頭線神泉駅 事件内容 呪詛師による立て篭もり及び殺傷 被害状況 死者  13名 (容疑者含む)     負傷者 2名 うち…

  • 第十七話 枯れた白薔薇

     ピ、ピ——規則的な音が響いている。たゆたう水面に体を預け、どこまでも漂っていたはまぶたを押し上げた。 目映い光が網膜を灼く。一面真白の世界。一瞬、そういう場所に来てしまったのかと思ったが、突如視界に女性の影が入り込んで彼女の思考は果てしな…

  • 第十八話 それでもなお傷む

    「では名前を」 白衣姿の家入が言っては口を開く。「、28歳、血液型は■■型、板橋区在住、渋谷煌心女学園養護教諭です」「よろしい。では、これからいくつか図版を見せるので、それがなにに見えるか答えてもらいます。途中休憩が必要であれば都度申告をお…

  • 第十九話 風になりたい

     その日七海健人は都立呪術高専の敷地内を歩いていた。「なーなみ!」 草むらから飛び出すうさぎのごとく現れたのは高専教師であり、特級呪術師の五条悟。うさぎとは言ったが、実際にはおよそ小動物とは言えぬ大きな図体と多くがクズと称するデリカシーを欠…

  • 第二十話 それはきっと、

     車は高速に乗り、都心から遠ざかっていく。外の景色がビル群から緑豊かな大自然に変わり、しばらく霧立つ山路を行くとやがて大きな寺院の前で停まった。「都立、呪術高等専門学校」 表向きは、宗教学校として別の名で登録されている私学らしい。その別名は…

  • あとがき

     このたびは、「それはきっと甘やかな呪縛」をお読みいただき本当にありがとうございました。 実はこちらは呪術廻戦に狂い始め、初めて書いた呪術夢だったのですが、なんと、二週間で八万字も書いてました……恐るべし五条悟。先に支部で完結させ、サイトで…

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