Another Chance

 

ダイゴさんと大誤算な人生のやり直しをする話

– main story –

  • episode.1

     将来の夢は、小さいころから決まって「およめさん」だった。 白いふわふわなドレスを着てステンドグラスのきれいな教会で式を挙げる。そうだな、ナックルシティのあの教会がいいかもしれない。あまり大きくはないけれど正統派の歴史ある教会。長いベールを…

  • episode.2

     副社長のトンデモ発言を受けたのは数日前のこと。助けてもらってワガママを言うのはなんと恩知らずとわかりつつ、私はもうあのときなにもかもが吹っ切れていた。初対面でそんなことを言う人間の気が知れないし、第一、ボクのところってなに? どこ? どこ…

  • episode.3

     コン、カン、コン、カン、意気揚々と金属が岩岩肌を打つ音が聞こえてくる。リズムよく刻まれるそれは、まるで岩と金槌のシンフォニーを楽しむ特別コンサートにでも招かれたかのようだ。 さて、本日の道先案内人である私は、現在、断崖絶壁に近い岩へと立ち…

  • episode.4

     あのあと、ハシノマ原っぱを抜けて私たちはその足でげきりんの湖に向かった。 あいにくの天候ではあったものの、もちろんやまおとこセットの中に雨具を用意していたので問題はなく、白いレインコートですっぽりと身を包んだ副社長は、それはもうキャタピー…

  • episode.5

    「なんだって、そのダイマックスバンドには鉱物が?」 無事ラプラスを捕まえた私たちである。それをラボに送るかどうかで悩み、やっぱりいいやと結論づけたあとおまけ程度にそんなことを告げると、御曹司の目がこれでもかとギラつき始めたのがハイライトだっ…

  • episode.6

     その日の収穫は、結局、ほのおのいしやみずのいしというポケモンの進化に関わる鉱石ばかりだった。結局、なんて言うとマニアには怒られてしまいそうだけれど、フローライトが見つからなかったのをどこか残念に思っている自分がいた。 次の日はラテラルタウ…

  • episode.7

    「くん!」 ふり向いた先の、その人に私は瞠目する。「カブさん!」 お久しぶりです! と立ち上がって握手を求めようとして、偉大なほのおの男は着火線についた火のごとく駆け寄り、「よかった、生きていたのかい」私の肩をガッと掴んできた。「え?」「キ…

  • episode.8

    「おまえとずっと一緒にいられたら、幸せだろうな」 あの人は言った。大きな大きな手で私の手を包みながら。竜のようにあたたかな温度が心地よくて、ずっとつないでいたいと私はおもった。 やさしくそそがれる甘く垂れた碧い瞳。海のようにも、空のようにも…

  • episode.9

    「やあ、お待たせ」 突然の邂逅を終え、スボミーインの一階にあるカフェラウンジのソファにどっぷり座っていると、背後から副社長がにゅ、と顔を出した。「おかえりなさいませ」「うん、ありがとう。なんだか浮かない顔をしているね」 会って数秒で見抜くこ…

  • episode.10

    「死にたい、死にたい、死にたい死にたい死にたい」 そらとぶタクシーの中で、過ぎゆくホワイトヒルの雄大な景色を眺めながらぶつぶつと呟く私に、「ここで飛び降りないでね」と副社長はさらりと告げた。それはフリだろうか。とにかく、怒涛のメロドラマ展開…

  • episode.11

    ヘイ、スマホロトム、副社長秘書のお仕事を調べて。 と、いうのは、ここ最近の私の口癖である。そのたび言葉にできないような動画が出てきてしまうことになり、スマホ画面を割りそうになることもお馴染みの流れだ。「楽しみだね、ちゃん」 今日も今日とて、…

  • episode.12

     恥ずかしい一面を晒して、思わずコオリッポのこおりフェイスをかぶってしまいたくなったものの、そのあとは午前中と同じくひたすら特訓と作戦会議に勤しんだ。 スタジアムでは心置きなくダイマックスさせることができるため、トーナメントに参加しないとい…

  • episode.13

     これぞまさに、出鼻を挫かれたというのが正しいだろう。関係者のみのパーティーとはいえ、当然新聞社やらテレビ局やら多くの報道陣がやってきている中、今夜に備えてダイウォールで先手を打つ前にダイジェットを放たれてしまったわけだ。 会場にいたルリナ…

  • episode.14

    連れてこられたのは、人気のない奥まった場所にある部屋だった。「控え室前にはすでに何人か記者が待機していてね」 彼はそう言ってカードキーをノブに当てドアを押し開ける。中はさすがデボン所有の会館――とでもいうような瀟洒なつくりの部屋だった。きっ…

  • episode.15

     デボンとマクロコスモス共同制作による新製品の発表が終わり、いよいよメインであるエキシビジョンマッチの時間がやってきた。 参加者であるガラルトレーナー陣のみならず他の来賓やゲストたちがパーティー会場から併設の特別スタジアムに移動し、いまかい…

  • episode.16

    「ダイドラグーン!」「ダイナックル!」 キョダイマックス同士、一歩も譲れぬ戦いが繰り広げられている。だが、ジュラルドンのダイドラグーンの威力には勝てず、そのままゲンガーは真っ向から攻撃を受けてしまった。大きく体を揺らす相棒に唇を噛みしめるが…

  • episode.17

    「キバナ」 よ、と肩を揺らす彼は、バトル中の獰猛な姿がうそのようにとても穏やかだった。同じく衣装替えをしたのか、今度はブラウンのベスト姿で小脇にジャケットを抱えている。やはりそれもすらりとした体躯に美しくフィットしていて、ゆったりとこちらへ…

– after stories –

  • ゲンガーくうきをよむ

     ガラルの夏はからりとしていて清々しい。ナックルシティ上空で起きているすなあらしをも見渡せるだろう晴天の空を眺めていた私は、「次、エンジンシティですよ」というタクシー運転手の言葉に軽く伸びをして放り出していた鞄を肩にかけた。「ありがとうござ…

  • こうかはばつぐんだ!

    「なんっで、ひと言も言わないの!」 昼下がりのブラッシータウン、ポケモン研究所。天井まで連なる本棚や温室型アトリウムのあるお洒落なそこに、私の心の叫びがこぼれだす。 優雅にアフタヌーンティーをするマグノリア博士の手前、それはひそひそ声に変わ…

  • とってもグロリアス、だね?

     さて、ヨロイじまでウキウキのバカンス――じゃなくて、大興奮の調査を終えた私たちはようやく正式な休暇にありついていた。ガラル粒子測定器を持ち運ぶことも、ピッケル片手に洞窟へ突入することもない、正真正銘のバカンス。夏が過ぎたらすぐにシーズンに…

  • すてきなおちゃかい

     ホウエンから戻ってまもなく、エンジンシティジムでカブさんとのミーティングを終えたときのことだ。その日はいつも協力してもらっている定期調査の日で、マルヤクデをダイマックスさせてもらいスタジアムじゅうのガラル粒子濃度を測定したあと、依頼してい…

  • きれいなハネでつつんで

     まるでおとぎの国に迷い込んだようなきらめくシャンデリア。皓々と目映い光の中でひらひらとトサキントの尾ひれのようにサテンが揺れる。 ここはガラル地方、ナックルシティからほど近い場所に位置するとある宮殿。たった今、シーソーコンビ――シルディと…

  • かがやくオーロラベール

     さて、これは私たちが付き合う前、ツワブキダイゴ副社長がガラルを去る直前のお話である。スボミーインのスイートルームで、まさしくウィンディどころかザシアン・ザマゼンタ級のとおぼえを上げた日から数日。数々の報道取材や問い合わせをほぼさばき終えた…

  • しあわせのキャモメ

    『ツワブキダイゴ、本命宣言!』 ガラルどころか世界を震撼させた報道から数日、バウタウンの私の家に、ある男の姿があった。「ごめん」 と、やけにカラッとした調子で笑う彼に、今のところ反省という言葉はないのだろう。やけに晴れやかなその笑みは、いつ…

  • たいせつなものはしまっておかなくちゃ

     できるだけ画面の大きなタブレット端末をカバンから取り出したあと、指先が求めるものは決まっている。 シャワーを浴びたばかりの髪をタオルで拭いながら、それとなく携帯のメールや着信をチェックする。そのあと、タブレットをスリープ画面から起こして「…

  • とっておきのカジッチュ

    「!」 あどけない声が青空に響き、「来たな、少年」とポケモン研究所の植え込みでイオルブを観察していた私は白衣を翻しふりかえる。視線の先には、アーマーガアのワンポイントワッペンの入った黒いポロシャツにベージュのハーフパンツ姿の少年。「今日こそ…

  • しのびよるヨノワール

     刻一刻と季節が深まり、吹く風がどこか寂しさに似た切なさを感じさせる。しかし情緒あふれる風のにおいとはうらはらに、ガラルじゅうは静かな熱気に包まれていた。 名物、ジムチャレンジ。十二月に開催されるチャンピオンカップに向けて、今年もまたこの季…

  • ふくつのこころがほしいの

    「さん、そちらの数値どうです!」 叫び声が聞こえる。ワイルドエリア北部、砂塵の窪地。吹き荒れるすなあらしの中、私たちはつい一時間前に発生した巨大発光を追って調査に出ていた。「こっちはすでに正常みたい。そっちは?」「こちらも特に異常はありませ…

  • くだけるよろい

     ダイゴさんは? というソニア博士の問いに、ポニータのたてがみを撫でながら、今ごろはシンオウじゃないかなあと答える。アローラ地方の視察を終えて、ホウエンに一度戻り、それからまた出張だと言っていた。「あいかわらず忙しいんだね、ダイゴさん」「そ…

  • おいかぜ

     こうして、熱を増していくジムチャレンジの裏側で、デボンコーポレーションガラル支社の事件はひそやかに幕を閉じた。逮捕された青年は、マクロコスモスでダイマックス事業部の技術者をしていた一人らしく、マクロコスモスの偉業がデボンに奪われるのを黙っ…

  • はるをまつラブカス

     怒涛の三日間が幕を閉じた。ウインターホリデーもクリスマスホリデーもこのためにあるのではないかというほどガラル全土は熱狂に包まれ、ジムチャレンジをのし上がってきたチャレンジャーとマスターリーグに所属する気鋭のトレーナーたち、そしてチャンピオ…

  • ゆうかんなウォーグルにつぐ

     すっかり静けさを取り戻した街並みをゆっくり進んでいく。つい頬を撫でるこごえるかぜに急ぎ足をしたくなるところだが、粉雪の舞うキルクスの景色を味わいながら私は高台にあるスタジアムを目指していた。 冬も深まり、まもなく寒さも尽きてくるころ。しか…

  • Happily ever after…

    「どうしたんだい、ん?」 キッチンに立ちながら、カウンターの向こうに見える光景に思わず頬がゆるんだ。Tシャツにカーディガンというラフな出立ちで、ダイゴは腕の中の小さき存在と見つめあい、笑いあっていた。最初はたどたどしかった手つきが、今ではす…

  • しんぴのいのり

     長いこと、この男をそばで見てきたように思う。友として、時として兄や弟のように。だが、これほどやわらかい表情をする男だったかと、ミクリは目の前でカプチーノを口にしたダイゴを眺めていた。 もとより物腰の柔らかな男である。相手がだれであれ礼節を…

読んだ!を伝える