07
その日の放課後、は久しぶりに小笠原ダンススタジオに寄ることにした。中学の卒業式終わりに、たまたま寄った以来だ。 揚げ物の美味しそうな匂いにつられそうになりながら、線路沿いを歩いていく。とんかつ一番の看板が見えて、すぐ隣がスタジオの入ったビ…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
06
事のあらましを大まかに告げた後、多々良が急に遠い目をしたかと思うと、大きく溜め息を吐いた。 賀寿が訝しげにそれを見つめると、もじもじと握った拳の指先を擦り合わせている。「あのさ、兵藤くんは……その……」「なんだで」「のこと気になってるよね…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章
05
「なあたたら」「なに、ガジュくん」 いつものように一年五組のベランダで弁当を食べながら、他愛もない話をしていると、急に賀寿が思い立ったように箸を持つ手を止めた。「ずっと聞きてぇことがあったんだがね」「うん、どうしたの」「兵藤とはどんな関係な…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
04
五月序盤の連休も明けて、本格的に部活動が始まった。 は使用していたパレットを美術室の隅にある手洗い場で流しながら、ぼう、と窓の外を眺めた。 美術室のある場所は、四階だ。目の前には見渡す限りの家々と、青空が広がっている。一年の教室も同じ階の…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
03
――富士田くんとちゃんって付き合ってるの? そう、クラスの女子から尋ねられたのは、つい最近のことだった。 その時、はきょとんとした顔をして、言葉を咀嚼するように目を瞬いたあと、ハッとして頭を振った。嫌に胸がどきりとしたのを隠して。 ――え…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
02
昼休みも終了間近となって、屋上から教室に戻ると、多々良には不思議なことが起こった。「おい」 騒がしい教室で一人そうっと席に着くと、後ろから声を掛けられて多々良は大袈裟に肩を揺らした。「何かな、室井くん」引き攣った笑みで振り返る。「お前、アイ…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
01
「えっ、兵藤くんが家に来た!?」「たーくん、しっ! 声が大きいってば!」 声を張り上げた多々良に、は慌てて人差し指を唇に当てて言った。「ごめん!」と多々良が肩を揺らして謝ると、はもう、と唇を尖らせた。それからぎこちなく視線を落とし、紙パック…
あなたの鼓動を聞かせてよ第二章
19
「うち、ここなの」 住宅街を歩いて、彼女は一軒家の前で止まった。「富士田んちは」「歩いて五分くらいかな?」「ふうん」 日本によくある二階建ての洋風な家で、ガレージと小さな庭がある。プランターに植えられた花が黄色や紫、ピンクなど色とりどりに咲…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章
18
あっという間に一週間は過ぎていった。 気が付けばもう四月も終わろうとしていた。日差しは、日に日に強く照りつけるようになり、鼻孔を擽る香りが少しずつ夏に近づいている。校門前の桜並木もすっかり緑色に変わり、いつもの風景を取り戻していた。 変則…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章
17
次の日。昼休み、お手洗いから帰る途中、は多々良のクラスの前で足を止めた。 幼馴染と言えど、もう高校生。あまり干渉しすぎても良くないとは思うが、本心としては、やはり少しばかり幼馴染が心配だった。 中学時代にやっと多々良離れのチャンスかとは思…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章
16
「、女の子って何考えてるの」 はどんよりとした様子の幼馴染に思わず目を瞬かせた。 まさか、昼休み、開口一番、彼からこんな質問がされるとも思わなかった。その上、様子が明らかにおかしい。 要の試合について聞こうとしたが、彼女は思わず口を噤んで、…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章
15
多々良と賀寿が、要の出る東京ダンスグランプリを見に行っている中、は部活を終えて帰路に着いていた。 先程、携帯を確認すれば、その多々良から「仙石さんたち決勝進出! 凄すぎて圧倒されてる」というメールが来ていた。それに頬を緩めて、は後楽園に思…
あなたの鼓動を聞かせてよ第一章