あなたの鼓動を聞かせてよ

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「たーくん、のクラスはまだかあ」 は終礼が終わって、多々良の教室の前へとやって来た。 だが、扉が閉まっており、彼のクラスはまだ終礼中のようだった。それが分かるとはスクールバッグを肩から下ろして、両手でぶら下げながら、窓側の壁に寄り掛かる。西…

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 青空に桜が咲き誇る四月。 甘い梔子の花の香りもそこかしこに広がり、桜の花びらとともに風に乗ってやってくる。道端には小さな緑が沢山息吹き、辺りを彩っていた。 愈々春になった。 真新しい制服に身を包み鏡の前に立つ自分の姿を見て、はよし、と口元…

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 一月二月も早々に過ぎ、季節は春に近付いてきた。時折吹く風が、肌寒さの中に花の香りを載せている。 は、背が伸びて短くなったスカートの裾を気にして、指で伸ばしながら、電車に揺られていた。 もうすぐ、この制服とも別れを告げる。三年前は膝頭が隠れ…

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「たーくん、初詣一緒に行かない?」 というの言葉が発端だった。 年も明けてからりとした爽やかな寒さの三ヶ日。 家で勉強とテレビ、そして美鈴特製のお節料理も満喫して、時間を持て余しかけていた多々良は、からの電話に二つ返事で頷いた。 吐く息も、…

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は、静かな廊下を歩いていた。 いつも授業を受けている教室からは離れた棟だからか、部活動をする生徒たちの声も聞こえない。それとも、今日が冬休み初日のクリスマスだからだろうか。 どちらにせよ、は落ち着いた気持ちでゆったりと目的地に向かって歩いて…

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 ――兵藤くんの、あれはどういうことだ。 多々良は駅のホームでの出来事を思い返していた。 二人きりにさせてやったらどうかと父に言われるがまま、幼馴染とその憧れの人を送り出した多々良だったが、結局、清春の忘れ物に気がついて彼が駅まで届けに行く…

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「じゃあ、僕夕飯の手伝いあるし、、兵藤くんのことよろしくね」 と、視線を泳がせながら手を振った幼馴染を、この時ほど恨めしいと思ったことはないだろう。わ全く、余計な気を遣われてしまったようだ。たーくんのばか、とは小さく溜息を吐く。 富士田家を…

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「おじさん、こんにちは」 多々良の家に着くと彼の父が出迎えてくれた。「ちゃんいらっしゃい。見ない間に大きくなったなぁ」「そうかな?」「昔はこーんな小さかったのに」「もう、いつの話ししてるの!」 多々良の父、鉄男は、目を細めて柔らかく笑うと、…

06

「たーくん、やっぱりわたし帰るよ」 フルーツの盛り合わせを抱えた多々良のジャケットの裾を引っ張って、は言った。「ええっなんで」「だって、ちょっと気まずいし」「僕としてはも居てくれると助かるんだけどな」「そうかなぁ」 は息をゆっくりと吐き出し…

05

「要さん!」 一際目立つ大きな背を見つけた。「遅くなってすみません」という言葉とともに、彼のもとに走り寄る。だが、近付いてみると、妙な空気が漂っており、どうしたものか、は首を傾げた。「遅えぞ」 などと言いながら、そんな彼女に要は親指で後ろを…

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 三笠宮杯当日。 何故だか緊張して眠れずにこの日を迎えた多々良は、寝不足を隠せずにいたものの、心のうちから沸き起こる高揚に体を委ねていた。 東京体育館という大きな会場に、ひしめくように二階三階席に集まった観客、そして、フロアには数多くのダン…

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 十月になった。 愈々夏の残滓は秋風に吹かれて何処かへ連れ去られてしまい、ひんやりと仄かに肌をつく寒さに、上着を纏う季節がやってきた。 多々良が家を出るとすぐ、ブロック塀の向こうに小さな背中が見えた。「あれ、。どうしたの」 多々良が尋ねると…