Another Chance

しんぴのいのり

 長いこと、この男をそばで見てきたように思う。友として、時として兄や弟のように。だが、これほどやわらかい表情をする男だったかと、ミクリは目の前でカプチーノを口にしたダイゴを眺めていた。 もとより物腰の柔らかな男である。相手がだれであれ礼節を…

Happily ever after…

「どうしたんだい、ん?」 キッチンに立ちながら、カウンターの向こうに見える光景に思わず頬がゆるんだ。Tシャツにカーディガンというラフな出立ちで、ダイゴは腕の中の小さき存在と見つめあい、笑いあっていた。最初はたどたどしかった手つきが、今ではす…

ゆうかんなウォーグルにつぐ

 すっかり静けさを取り戻した街並みをゆっくり進んでいく。つい頬を撫でるこごえるかぜに急ぎ足をしたくなるところだが、粉雪の舞うキルクスの景色を味わいながら私は高台にあるスタジアムを目指していた。 冬も深まり、まもなく寒さも尽きてくるころ。しか…

はるをまつラブカス

 怒涛の三日間が幕を閉じた。ウインターホリデーもクリスマスホリデーもこのためにあるのではないかというほどガラル全土は熱狂に包まれ、ジムチャレンジをのし上がってきたチャレンジャーとマスターリーグに所属する気鋭のトレーナーたち、そしてチャンピオ…

おいかぜ

 こうして、熱を増していくジムチャレンジの裏側で、デボンコーポレーションガラル支社の事件はひそやかに幕を閉じた。逮捕された青年は、マクロコスモスでダイマックス事業部の技術者をしていた一人らしく、マクロコスモスの偉業がデボンに奪われるのを黙っ…

くだけるよろい

 ダイゴさんは? というソニア博士の問いに、ポニータのたてがみを撫でながら、今ごろはシンオウじゃないかなあと答える。アローラ地方の視察を終えて、ホウエンに一度戻り、それからまた出張だと言っていた。「あいかわらず忙しいんだね、ダイゴさん」「そ…

ふくつのこころがほしいの

「さん、そちらの数値どうです!」 叫び声が聞こえる。ワイルドエリア北部、砂塵の窪地。吹き荒れるすなあらしの中、私たちはつい一時間前に発生した巨大発光を追って調査に出ていた。「こっちはすでに正常みたい。そっちは?」「こちらも特に異常はありませ…

しのびよるヨノワール

 刻一刻と季節が深まり、吹く風がどこか寂しさに似た切なさを感じさせる。しかし情緒あふれる風のにおいとはうらはらに、ガラルじゅうは静かな熱気に包まれていた。 名物、ジムチャレンジ。十二月に開催されるチャンピオンカップに向けて、今年もまたこの季…

とっておきのカジッチュ

「!」 あどけない声が青空に響き、「来たな、少年」とポケモン研究所の植え込みでイオルブを観察していた私は白衣を翻しふりかえる。視線の先には、アーマーガアのワンポイントワッペンの入った黒いポロシャツにベージュのハーフパンツ姿の少年。「今日こそ…

たいせつなものはしまっておかなくちゃ

 できるだけ画面の大きなタブレット端末をカバンから取り出したあと、指先が求めるものは決まっている。 シャワーを浴びたばかりの髪をタオルで拭いながら、それとなく携帯のメールや着信をチェックする。そのあと、タブレットをスリープ画面から起こして「…

しあわせのキャモメ

『ツワブキダイゴ、本命宣言!』 ガラルどころか世界を震撼させた報道から数日、バウタウンの私の家に、ある男の姿があった。「ごめん」 と、やけにカラッとした調子で笑う彼に、今のところ反省という言葉はないのだろう。やけに晴れやかなその笑みは、いつ…

かがやくオーロラベール

 さて、これは私たちが付き合う前、ツワブキダイゴ副社長がガラルを去る直前のお話である。スボミーインのスイートルームで、まさしくウィンディどころかザシアン・ザマゼンタ級のとおぼえを上げた日から数日。数々の報道取材や問い合わせをほぼさばき終えた…