それはきっと甘やかな呪縛

第九話 アロワナのまなざし

 どんなことがあろうと、日はまた昇る。それがおよそ二十数年生きてきた中で一番よく学び実感してきたことだろう。苦虫を噛み潰し、また辛酸を舐めるような夜があっても、目を閉じれば朝はくる。はたまたやさしい夢や腕に包まれていたとしても、時は決して人…

第八話 飛び続ける

 私立渋谷煌心女学園における一級呪霊特殊事故の被害について  負傷者三名、うち一名、重傷。  以下、被害者リストである。 教諭     東京都板橋区⬛︎⬛︎5-10-3    メゾン・リュミエール205号    電話番号 03ー■■■■ー■…

第七話 駆ける彗星

「甘いものたべる?」 気を取り直すと、は棚からクッキー缶を取り出しながら五条に声をかけた。 以前、岐阜から取り寄せていたクッキーだ。五条は背もたれから体を起こした。「ん。てか、これ食べていい? めちゃくちゃ僕のこと誘ってきてるんだよね、この…

第六話 秘密の逢瀬とラムボール

 日常はつつがなく過ぎていく。 五条と会ってから一週間、二週間と過ぎ、もう彼は来ないのだろう、とは半ば諦めていた。しかし厄介なことに、の中の淡い憤りに似た違和感はどんどん大きく膨らんでいくばかりだった。 かつて、電話もインターネットもなかっ…

第五話 消えない熱、色を変える世界

「伊地知、あのパンケーキ屋のことだけど」 裏原と呼ばれる表参道から原宿までの側道を原宿に向かって進みながら、五条は携帯を耳に当てる。 ワンコールで出た高専職員に矢継ぎ早に告げると、電話の相手はおののくこともなくこれまた端的に彼の要件を呑み込…

第四話 止まり木を手放した鳥

「あ」 不意に二つの声が重なった。 吾輩は学校の外に出るとまったくの別人である、と、かの高名な夏目漱石も言ったかどうかは定かではないが、この日のも普段の教諭の皮を脱ぎ去り、その多分にもれず大都会東京に溶け込む一人の若者となっていた。 一方で…

第三話 彼女の城

 養護教諭の朝は早い。というより、教員の朝は早い。始業は一応、八時二十分という生徒の登校時間と同じ時間になっているが、その時間につけばいいわけではないのが教員というものだ、朝練をしている部活もあるし、朝早くに委員の仕事がある生徒もいる。ある…

第二話 ぼくは救世主

 という人間は、おおむね人畜無害という言葉が当てはまると五条は思った。 あたかもすでにそこにいましたという、空気のような存在の女。しかし空気というのは厄介で、先に称した人畜無害という言葉とはほど遠い。なぜなら、空気がないと人間は生きられない…

第一話 きみは救世主

 コンと窓を打った音にはパソコンを閉じてふらりと窓辺へ寄った。「こんにちは、五条くん」 いつもどおり窓から現れた男に鍵を開けてやる。白銀の光に透き通るきれいな髪と、それとはうらはらに全身黒ずくめの様相は、いかにもこの真昼の学校にはそぐわない…