蜂蜜より、甘い
カナコの足跡を探す旅は、想像以上に回り道ばかりだ。手がかりなどほぼない状態で、ひたすら国から国を移る。彼らがそのたびに身分を新しくすること以外は、食べて、祈って、まったりとした陽だまりに身を預けて、街で情報収集という名の散策をする様などは…
いつか、君と
溺れる
夜になると、ボンベロは壁を隔てた向こうから聞こえてくる呻き声に、目を覚ました。「……またか」 のっそりと身を預けていたソファから起き上がり、いびきをかいている菊千代を踏んづけぬように気をつけながら、彼はテーブルに置かれた酒瓶を手にすると、居…
いつか、君と
誰がために祈る
イギリスを離れた二人は、とあるルートで手に入れた新たな身分を使い、鉄道にてフランスへと入った。 ――ゴーン、ゴーン 荘厳な鐘の音が鳴り響く。薄暗い室内に七色の光が射し込み、大きな十字架が物々しく浮かび上がっている。 その前に佇む女をボンベ…
いつか、君と
桃はお好き
店を出ると、二人はこの数日間で慣れた道のりを歩いた。裏世界を生きてきた彼らのことだ、たとえ組織が壊滅したとニュースやラジオで耳にしていたとしても、行き先のわかりやすい大通りを堂々と歩くわけにはいかない。いつどこで追っ手に尻尾を掴まれるかわ…
いつか、君と
ステーキはミディアム・レアで
「ボンベロ、眉間にしわが寄ってる」 銀色のフォークでスパゲティをくるくる、と器用に巻き上げながら女が言った。 少し埃っぽい店内、客は彼女とその目の前に座る男だけ。名前を呼ばれたその男は、サイドに垂らした長い前髪の下で瞼を閉じると、手にしたナ…
いつか、君と
EPILOGUE
楽園は地球上のどこを探しても見当たらない。どれだけ大きな地球儀や精緻な地図を用意したとしても。 だが、きっと人々は知っているのだ。自らの楽園が、どこにあるのかを。 懇親会が始まった。ホールから繋がった貴賓室で、三人のボスがテーブルについて…
エデンで眠る
THE BROKEN PEDURUM
懇親会は刻一刻と迫ってきていた。どうやらそのことについて話があるようで、下拵えを終えたボンベロは、を調理場に招き入れた。「スキンが、デルモニコの死に関する情報を集めていたのは知っているか」 聞こえてくる声に、わたしはこっそり調理場を覗き込…
エデンで眠る
ENTWINE THEIR PINKIES
ホールに戻ると、はナプキンを折る仕事を終えていたようだった。いつのまにかグリーンのワンピースに着替え、目元には濃いアイラインが引かれている。相変わらずどこかの魔女みたい。それだけで雰囲気がガラリと変わるものだから、自然と背すじが伸びた。 四…
エデンで眠る
YOU CAN GO ANY WHERE
懇親会当日、いつものように店支度を迎えたダイナーは、夜が明けてすぐのすみれ色の空のような、さっぱりともしっとりとも言い切れない空気に包まれていた。 わたしはモップとバケツを手に、トイレに始まりそれぞれの個室、通路、そして懇親会で使う貴賓室…
エデンで眠る
MELT
は懇親会の当日まで、ダイナーで過ごすことになった。 まだ体力が完全に回復していないのか、糸が切れたようにうつらうつらとすることがある。そんなときは、ボンベロが呆れた口調で、「邪魔だ、寝ていろ」とホールや調理場から追い出すのだが、そのあとに…
エデンで眠る
THE MADELAINE SHE LOVED
が目を覚ました。 まだほんのりと夢に浸かったままの瞳をこすりながら、ホールへと顔を出すと、ゆらりゆらりとナプキンを折るわたしのもとへと歩いてきた。「カナコ、ボンベロは」 しっかりとした声が響く。髪の毛はほつれ、足取りもまだしゃんとはしていな…
エデンで眠る
THE “SECOND” TIME
が眠りについたあと、ボンベロはホールで銃をバラしていた。「それ……の銃?」「ああ、そうだ」 カウンターの上に敷かれた白い布が、赤黒く染まっている。彼女の血か、それとも誰かの返り血を浴びたのかもしれない。彼がパーツをひとつずつそこへ置くたび…
エデンで眠る