たゆたえども沈まず

第三幕 第十話

「なぁー銀ちゃん、なんで最近おでんばっかりアルか? はおでんマイスターにでもなるアルか?」「知らねェよ、アイツに聞けアイツに」「もう今週四回は食べてるアル、いい加減食べ飽きたネ。そろそろ私がんもどきになってしまうヨ」「四回ならいいだろ。俺な…

第三幕 第九話

 やっと、あるべきところに気持ちが収まったかのようだった。 お登勢さんの何気ない言葉は、ふわりふわりと空を漂う綿毛のように落ち着かぬ心をそっと撫で付けてくれた。 今となって、どれだけ自分勝手に生きていこうとしていたかが身に染みてわかる。自分…

第三幕 第八話

そういうわけで、わたしたちは階下のスナックお登勢に訪れた。「ばーさん、こいつになんか旨いもん出してやって。あと、酒」 あ、俺にも勿論な、と言い添えながら、銀さんは椅子によっこらせと年寄り臭く座る。「銀時、アンタそんな金持ってんのかい」「んな…

第三幕 第七話

 翌日は、重たい気持ちでの出勤となった。「昨晩は、申し訳ございませんでした」 早朝の微かに湿った空気の中、目の詰まった畳に指先を突いて頭を下げる。井草の香りが鼻をくすぐるが、ちっとも胸のざわつきや吐き気は安らぐことはない。「何が悪いか分かっ…

第三幕 第六話

「やー、おりょうちゃんが居らんと聞いちょったき、帰ろう思ったんじゃが、こりゃ帰らんくてよかったのぉ」 ガハハ、と大きな笑い声の横で、わたしは、それはよかったです、とできるだけ嫋やかに笑みを浮かべてお酒を注ぐ。 スナックすまいるは今日も大繁盛…

第三幕 第五話

 神楽ちゃんとの買い物からしばらく、相変わらず穏やかだが忙しい毎日は続いていた。 今日も朝から仕事だ。まだ薄っすらと紺色を纏った空気の中を早足で歩いていく。冬の朝は遅く、早番の日には、今日のように暗いうちに家をでることが殆ど。空にはまだ銀色…

第三幕 第四話

 お登勢さんから頂いた道中着を羽織るも、冷ややかな風が首元をスッと撫ぜる。「うぅ、さむい……」 以前は毎日のように使っていた道のりを歩きながら、わたしは羽織ものの襟元をぎゅっと握って身を縮こめた。 ついこの間まで秋めいてきたな、と思っていた…