黎明に咲く

――汝、花のごとく

落ちた花はどこへ流れる

  • 第一話

     階上に響きだしたふたつの声に、治療にやってきていた警備隊の人たちがまたかと肩をすくめる。ひとつは女性の、高すぎず低すぎず凛として透きとおったもの。もうひとつは腹の底からはるか遠く響いていきそうな咆哮に似た音。そのどちらも今となってはすっか…

  • 第二話

     コトブキムラは小さなムラだが、コンゴウ団やシンジュ団の集落をのぞいてこの場所以外、ヒスイじゅうの土地の開拓が進んでいないために、ムラの中だけでたいていのものは揃うと言っていい。野菜や肉などの食材はもちろんのこと、生活に必要な雑貨や衣服、娯…

  • 第三話

     赤とも紅ともいえぬ、その透きとおる見事な「あか」を背徳と言わずになんと呼べばいいのだろう。板間のすみに寄せられた小さな座卓の上に置かれた背徳の小瓶。普段イモやトウモロコシ、あるいは少しの米が主食のヒスイでは、あまり活躍することもない。それ…

  • 第四話

     空は青く、澄み渡っていた。燦然と照りつける陽射しに懸命に背を向けながら、わたしは自らの背丈よりやや高い竿竹へと白い木綿布を掛けていく。 今日は一段と天気がいいからと本部横手の土手ではなく、さらにもう一段先の小高い丘の上で洗濯物を干していた…

お慕い申しておりました。だれよりも、深く……。

黎明に咲く

  • 第一話 長夜に見る夢

     すでに辺りは薄暮に包まれていた。それが赤い空のせいなのか、それとも過ぎゆく時のせいなのか、はっきりとはしなかったが、たしかに時間に際限はあった。このままでは夜が来る。その前にどうにか次の手を打たなくてはならないものの、わたしたちはただ木立…

  • 第二話 小さき箱庭

    「さん」 ゆさゆさと揺り動かされ、わたしは目を覚ました。目を開いた先には睡たげなまあるい飴玉と灰色の雲。ぺろりとわたしの口もとを生あたたかいなにかが伝うから、微睡みの余韻もなく飛び起きることとなった。「……ひゃ、な、なに!」「ゾロア、いきな…

  • 第三話 うたかたの心中

     リッシ湖での試練は無事終わった。昂揚ぎみに、頭の中へ語りかけてきたのだと口にするのはセキさまで、アグノムという湖のポケモンとの対峙はなかなかに印象的だったようだ。隣では試練を受けた少女がアグノムより受け取った「きば」をじいと眺めている。こ…

  • 第四話 曙の神様

     唐突に手持ち無沙汰になったものだから、まるで地を這うヌメラのような心地で過ごすことになってしまった。そんなことを言ったらヌメラに失礼かもしれない。空は依然妖しい色をしており、眺めるだけでどことなく胸のうらを撫でられる気がする。 なにをする…

  • 第五話 記憶の淵

    「とんだ女がいるモンだと思ったんだ」 ぽつりぽつりと紡がれる言葉は、やわらかな胡弓の響きであった。琴線がどうしようもなくくすぐられる。聞いているだけでその音色に縋りついて、身を委ねて、なにもかもを捨て置いてしまいたくなる。モモンの実をいきな…

  • 最終話 黎明に咲く

    「身体は、どう?」 目が覚めた先は、コトブキムラのギンガ団本部であった。医務室の白熱電灯が瞬いて、その明るさにしばらく目を細めていると、声を掛けてきたのは医療隊の長――キネさんだ。久方ぶりに見るその姿に、とっさに唇を開くが、なにかを発しよう…

うつくしい花を咲かせよ

その後

  • 明日を抱いて

     寿村来賓館落成候ニ付来ル満月ノ宵同館ニ於テ夜會相催候條午後七時半ヨリ御来臨被下度此段及御案内候…… ……■■■にて発掘された書簡より。 「あとは患部を清潔に保ってくださいね」 ひとりの女が、白い手を器用に動かしながら巻き木綿を男…

  • あなたとともに

     哀れな女であった。裂け目からでてきたまがいもの。湖の叡智により、全知の記憶を奪われたもの。なにも知らずにのうのうと笑う。自分からすべてを奪った男を、おやのように親しみと慈しみを込めて呼ぶ。救いようのない、哀れで、無様で、滑稽な女。莫迦莫迦…

何処に咲く……

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