Between the Line

Between the Line 05

 目が覚めると、そこは別世界だった。静けさが辺りを包んでいる。混沌の波も過ぎて、なにもかもがなくなったあとのようだった。シックな内装のジャズクラブが、がらんと闇に眠る。しかし、おぞましい生き物がステージの上でマイクスタンドに絡みついていた。…

Between the Line 04

「すみません、戸川先生」 そそくさと帰っていく外国人講師を横目に、翌日の準備を手伝ってくれたのは戸川先生だった。彼はわたしが頭を下げると、ん、とかすかに口もとを引いただけで、掴みどころのない表情のまま教室の机を整頓してくれる。「そういえば、…

Between the Line 03

「見ましたよぉ、セーンパイ!」 教室に着くやいなや、むふふと好奇心を隠さずににやけ顔を向けてきたのは依田ちゃんだ。「なにが」「もう、しらばっくれないでくださいよぉ、と・が・わ・せ・ん・せ・い!」 受付の裏で勤怠カードを切り名札をかけるわたし…

Between the Line 02

「ええ、先輩。戸川先生とごはん行ったんですかぁ」 翌日、事務仲間である依田《よだ》ちゃんと早番が重なって、わたしは軽い気持ちで昨夜のことを打ち明けた。「うん。スティーブンが言ってたやきとり屋。おいしかったから今度行こうよ」「もちろんいいです…

Between the Line 01

《すみません、急ぎの仕事が入りました》 無情にもデートのキャンセルを告げた携帯は、わたしの反応を待たずに真っ暗に消えていった。かれこれ、四年は使っている携帯だ。省エネのために画面ロックの時間を三十秒に設定していたから、返信をする前に消えてし…