それから暫く経って、すっかり万事屋は平和に包まれていた。
「すみません、この特性デラックスパフェ二つ」
甘いものは別腹だとは良く言ったもので、お昼ご飯を食べた後だというのに、メニュー表を見て豪華なパフェを指差すわたしとお妙ちゃんに、髷に洋装姿の店員は引き攣り笑いを残して去って行った。
パチンコに行く銀さんを呆れながらに見送ったあと、お通ちゃんのライブが近いから、と新曲の振りを練習する新八くんと、それを心底嫌そうに眺めて酢昆布をしゃぶる神楽ちゃんを家に置いてわたしは大江戸デパートまでやって来ていた。
お妙ちゃんと女二人水いらず、とびきりのスイーツを食べる約束を取り付けていたのだ。なんでもキャバクラの仕事でお客さんからサービス券を貰ったらしく、言うまでもない、わたしは喜んでその甘い誘いに飛び付いたのである。
ちなみに、銀さんたちに言えば末代までぐちぐちと文句を言われかねない、ということもあって、最上級パフェを食べにきたことは、ここだけの秘密だ。
メニューには、透き通ったグラスから溢れんほどのアイスやケーキ、それからフルーツがあしらわれたパフェの写真が中央を飾っている。
それをもうひと眺めしてうっとり息を漏らすと、楽しみね、とお妙ちゃんと言葉を交わした。
パフェを待つ間、他愛もない会話をあれやこれやと楽しんで、途中、テーブルの下から袴姿のゴリラが現れたり、断末魔の叫びが聞こえたり、お妙ちゃんが鋭い拳を鎮めて手の埃を払ったり――と、まあそんなこともあったわけだが、暫くして大きなグラスに入ったパフェが運ばれてきた。
写真の通り、わたしたちの顔よりも大きいグラスから、今にもケーキが飛び出して来そうである。すごい、感嘆の息を漏らしつつ、その神々しさにごくり、と喉を鳴らす。お妙ちゃんは目を細めて口元に手を遣った。
「本当、すっきりした顔しているわ」
ふふ、と笑いを隠しながら紡がれたお妙ちゃんの言葉に、わたしは頬にこそばゆい感じを覚えてはにかんだ。
「この食欲がなによりの証拠ね」
汚れないようにと小豆色の着物の袂をそうっと指先で摘みながら、肩を竦めて、パフェグラスの横に添えられた銀のスプーンに手を伸ばす。
何事もなかったかのように、日常は戻ってきた。喉元過ぎれば熱さ忘れるとはよく言ったもので、些か擬えが簡素すぎるとは思えど、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
花より団子感が云々、銀さんに言われたことを思い出して、言い得て妙だ、と内心頷く。
だが、こうして笑えているのは、きっと彼らのお陰。
ひと口、スプーンを口に運ぶと、えも言えぬ甘さが広がって、美味しい、小さく息を漏らしていた。
「一時はどうなることかと思ったけど、ひと安心ね」
彼女の家で女子会と名を打った茶会も、今となっては懐かしい。
お妙ちゃんは、艶やかな髪をゆうるりと揺らしながら、スプーンで一番上に乗ったバニラアイスを掬う。
今思えば、あの時は相当酷い顔をしていたに違いない。それをお妙ちゃんは口にはしなかったが、ずっと気にかけてくれていたのだ。全てを終えて、そう、新八くんが話してくれた。
人情深い彼女のことだ。どれだけ心配してくれていたか身に染みる。
「お妙ちゃんには本当、心配おかけしました」
パフェをしゃくしゃくかき混ぜながら頭を下げると、お妙ちゃんは、いいのよ、と胸の前で手を振った。
「私が勝手にしたことだから」
「でも、本当に色々とありがとう」
「やだわ、そんな湿っぽい。もう過ぎたことは気にしないでいいじゃない」
「それもそうね」
言いつつ、凛と背筋の伸びたお妙ちゃんの姿に、目を細めた。
きっと、彼女の優しさは一生忘れない。
アイスが溶けちゃうわね、とわたしたちは目を見合わせて笑い、パフェを食べ始めた。
「この後は?」
お妙ちゃんが手元のおしぼりで柔く口元を拭い、お水を一口飲んだあと、訊ねてきた。
「んー、仕事探し」
「まあ、それは大変」
今度は白い指先で口元を覆ってくすくす笑いだす。
「どこかのだれかさんとは大違いの働き者だわ」
「一応、その、どこかのだれかさんの家に居候の身なんだもの。働かざる者食うべからずとは言うじゃない?」
肩を竦めると、お妙ちゃんは笑みを深めた。
「凛子さんが良ければ、いつでもすまいるに来ていいのよ?」
「本当? ヘルプの呼び出しならいつでも受けるから、教えてね」
そうしてわたしたちはグラスが空になるまで、話の花を咲かせ続けた。
お妙ちゃんと別れた後、わたしは江戸の町を歩いていた。
かぶき町を出ると、また街並みが変わる。大きな道路に、元の世界でよく見たような軽自動車が走っていたり、近現代的な洋風の建物やビル郡が建ち並んだり。かと思えば、歩く人々は羽織姿や着流し姿。相変わらずちぐはぐで、本当に摩訶不思議な世界だ。
だが、それにどこか居心地の良さを感じつつ、かぶき町から一歩外を出た街並みを求人広告片手に歩く。
その途中、見知った姿を見つけて、わたしは立ち止まって声を上げた。
「副長さん」
真選組副長、土方歳三――ではなく、十四郎。
この辺りを見回り中だったのだろうか、自動販売機の前で屈み込みながら、紫煙をくゆらせていた。仕事中とあっても咥え煙草は外せないらしい。世間は禁煙ムードだというのに、随分と強気なもの。
目が合い、会釈をするや否や、彼はあからさまに面倒な奴に会ったとでもいうような顔をした。
「アンタ……」
「お勤めご苦労様です」
それに対抗するように、にっこり、頬を上げて笑みを作る。
向こうは自販機の缶ジュースを手にして体を起こし、端的に「ああ」とだけ返してきた。
「こんな所で、なにしてる」
「用事がありまして」
「用事? 一人でか」
なにか言いたげな視線を向けられて、わたしは苦笑いを浮かべ、曖昧に返事をした。
ひとり歩きをして懲りない奴だ、とでも言いたいのだろう。
廃刀令が下される以前よりか穏やかになったとは言え、かぶき町は一本道を逸れて裏店の路地に入れば、浪人たちが彷徨いていることがある。それに、先日の件もあったばかりだ。
女のひとり歩きは気を付けなければならない。それは重々承知である。だが、今日は事情が事情だった。
「先程までお妙ちゃんと一緒だったんですよ」
そう告げると、土方さんは唐突に気まずそうに身動ぎをした。
「……近藤さんに会わなかったか」
「お会いしました」
どういう顛末になったかは言うべきか迷ったが、その必要もなく、彼は全てを悟ったように額に手を当てた。
「またあの人は……」
聞こえて来た呟きに、わたしは聞こえないふりをすることにした。
秋も深まったとは言えど、日差しが照っていた。わたしでも首元に薄っすらと汗が滲むほどだ。黒い隊服だと尚更光を吸収して暑いのだろう、副長さんの白い顔はほんのりと赤らんでいる。
ぷしゅ、心地良い音がして、副長さんは缶コーヒーを開けた。なにか飲むか、と聞かれたが、首をふるり振って遠慮した。
「それ」
彼は缶コーヒーを飲み終えると、丁寧に缶を横のゴミ箱に捨てながら言った。
「それ?」
首を傾げるわたしの手元に、彼は視線を寄越す。すぐに合点がいき、ああ、と小さく紙を揺さぶった。
「仕事探しです」
「万事屋で雇われてるんじゃねェのか」
「お手伝いはさせて頂いてますけど、ただの居候なんです。ですから、いい加減雇ってくれる場所を見つけないといけなくて」
まなじりを下げて困ったように笑うと、眉を顰めて、少々部が悪そうな顔を浮かべた。
言ってしまってからハッとし、あ、と小さく声を漏らす。
そうだ、わたしは、真選組に拘留された挙句、放り出されたのだ。そうして、文字通り家も職もなにもかもなくなってしまった。
職も住む場所も奪われた女の依頼を受けた、とかなんとか、銀さんが彼に向かって故意的に、それもほんのりと悪意を込めて吐き捨てたことがある。
それを思い返し、もしかして気にしてくれていたのだろうかとわたしは眉を下げた。
確かに、その時は戸惑う反面よくぞ言ってくれたと、心の中で手を打ったものだ。腑に落ちない感情をつい最近まで胸の内に秘めていたのも確かである。だが、今ではもう、不思議なことに、すっかり抜け落ちてしまっていた。
「あの、そういうわけではないですよ」
途端に冗談めくように否定をするが、彼は、ああ、と煮え切らない相槌を返す。
「厄介掛けたな」
咥えていた煙草を指先に挟んだ。
厄介掛けた――彼の口から飛び出したのが謝罪の言葉でないだけ、少し安堵した。謝られたらどうしたらいいのかわからなかったから。
ハの字にした眉をそのままに、わたしは薄っすら頬を緩めた。
「もう過ぎたことですし、もとよりそれが貴方達の仕事ですから」
「ああ」
「それに、わたしも失礼なことを貴方に申し上げたことがありますので」
何度かこの人に啖呵を切ってしまったことを思い返して、その節はすみませんでした、と謝る。
今思えば、怖いもの知らずも良いところだ。幼子じゃあるまいし、猪突猛進に物事を為さないようにしなければならないな、と心の中でひとりごちていると、彼はさっぱりした態度で、「気にしてない」とだけ返してくれた。
それから一時、双方口を開かず、ただ車が、現代のように舗装された通りを過ぎて行く音が響いていた。
副長さんはそっぽを向いて、煙草を蒸している。視線は混じらない。それが有難いやら、気まずいやら。
いた堪れなくなったわたしは、手元の紙切れをサッと小さく畳んで巾着の中に仕舞った。
――やはり、この人の前だと調子が狂うような気がする。
これ以上この場に留まる理由はないな、と思い、少しだけずれていた帯留めを直して、彼がなにか言葉を口にするよりも前に、矢継ぎ早に笑みを浮かべた。
「すみません、お仕事中に。どうもお世話様でした」
そうして一礼して、その場を後にしようとした。
「待て」
呼び止められて、振り返る。
副長さんは手にしていた煙草を、胸元から取り出した簡易灰皿に押し付けて火を消した。
「あの、なにか」
「いや」
そちらから呼び止めたというのに。気まずそうに視線を逃されて、わたしは首を傾げる。
「その、なんだ」
「はあ、なんでしょう」
なにかをいいあぐねるように、決めの細やかな頬を、武骨な指先がひと掻きする。まるで、小動物を思わせる、弱った態度だ。
その様が珍しくて、不思議に思いながら茫然と彼の言葉を待った。
「ここで会ったのも、なにかの縁ってやつだ」
――縁?
まさか彼からそんな言葉が出てくるとは思わず、唇に手を当てた。
はあ、そうですか。またもや釈然としない相槌を返しつつ端正な顔立ちを見上げる。
涼しげな目元はよく見れば、まなじりが垂れて、なるほど女性が好きそうだ。だが、彼がひとつ瞬きをして睫毛を揺らすと、こちらを向いて視線が絡み合った。
灰色みがかった青い瞳。いつか手に取ったなめらかな絹のハンカチも熨斗目花色――そう言うらしい――だったか、同じ色合いだった。
真摯な眼差しに、心臓がとく、と鳴った。
「東雲」
名を呼ばれ、わたしは小さく、はい、と返事をする。
「折り入って、頼みたいことがある」
そうして居住まいを正した彼の姿に、わたしは思いがけず、目をぱち、ぱちと瞬かせたのだった。
*
「んじゃ、凛子の就職を祝して、カンパーイ!」
お登勢さんのお店でささやかな宴会が開かれていた。挙げられていた盃が、銀さんの一言を皮切りに待ってましたと勢いよく口元に運ばれる。
「はあ、美味しい」
「凛子さんお疲れ様でした」
喉元を潤した日本酒に笑みを浮かべていると、神楽ちゃんがお店の猫耳娘、キャサリンとなにかを言い合っているのを尻目に、新八くんが一升瓶を抱えてやって来た。
丁寧に注がれた二杯目に、ありがとう、礼を述べると、彼は謙遜するように笑みを浮かべて右隣に座った。
「でも、良かったですね、無事働き口が見つかって」
そう、就職先が決まったのだ。
銀さんが乾杯の音頭にも掲げていたが、今日はその為に、こうして下のお登勢さんのスナックを贅沢にも貸し切ってささやかな祝宴を開いてもらっている。
出会ってから三月も経っていないというのに、なんて幸せ者だろう。嬉しい気持ちを顔満面に散らしながら、お猪口に口をつける。
「そうなの、これで脱プー太郎ね」
「んだよ、俺がプー太郎みてぇじゃねぇか」
二つ向こうの席でしっぽり日本酒を楽しんでいた銀さんが反応した。あまりお酒に強くはないらしく、既にほんのり目元が赤い。
そんなことないですけど、言おうとしたところでお登勢さんが「プー太郎じゃないならさっさと家賃払いな」と釘を刺した。
「こちとら払えるんならとっくに払ってるわ、クソババア」
「開き直るんじゃないよ」
せっかくの祝いの場だ。突如火蓋を切った諍いに、まあまあお二人とも、とわたしは朗らかに仲裁に入る。
「銀さん、お給金貰ったら、代わりにお登勢さんにいくらか家賃払っておきますから」
「いや、そこは俺に直接渡すんじゃねぇの?」
「どうせ銀さんに渡したら、パチンコ行って全部スってしまうでしょ」
ぎくり、肩を揺らした後、思い出しちまったじゃねぇかなどとぼやきつつ、あからさまに嫌そうな顔をして酒の入った徳利をくるり回した。
先日、お妙ちゃんとパフェを食べに行った日も見事になけなしのお金を全て注ぎ込んで、財布の中身を空っぽにして帰ってきたのだ。家賃も給料も支払っていないというのに、銀さんは相変わらずだった。
お登勢さんがふん、と一つ鼻息を荒くする。
「凛子の言う通り、この男に渡したら最後さね」
「アーなんも聞こえねェ」
「ふざけるのは髪の毛だけにしな」
「あぁ? ババアこの髪の毛のどこがふざけてるって? どっからどう見ても可愛い子羊だろ、チャームポイントだろ」
「子羊? どうやら脳味噌までめでたいようだね」
「くっそ、見てろよ、ババア。明日起きたらストレートになってるからね。かしゆかもびっくり、サラッサラの超ストレートだからね。つーことで、オイ凛子、今からストパーかけてくるから金くれ」
「言ったそばからせびるんじゃないよ」
呆れた様子で、お登勢さんは煙管を蒸す。ふふ、とわたしは笑ってお猪口を傾けた。
甘い日本酒が喉にすう、と流れ込んで、酷く気持ちが良かった。
「凛子、給料入ったら酢昆布買ってくれるアルか」
神楽ちゃんが銀さんとの間にやってきて、ぴょん、と高いスツールに飛び乗った。
「酢昆布でいいの?」
「酢昆布以外になにがあるネ?」
「うーん、スイーツ食べ放題とか考えていたんだけど」
「マジかヨ。凛子、太っ腹アル! 銀ちゃんとは大違いネ!」
「俺だって毎日米鱈腹食わせてんだろーが」
「黙れよマダオ。スイーツと米の天秤が釣り合うと思ってるアルか」
二人のやりとりに笑いがこみ上げてきて、声を上げて笑っていると、神楽ちゃんはなんやかんや言う銀さんを放って「お腹すいたアル」と箸を手にした。お登勢さんがそんな彼女の前に丼ものを置く。
いただきます、律儀にも手を合わせた神楽ちゃんは勢いよく掻き込みながら、横目でわたしを見た。
「凛子、女に二言はないネ、忘れるなヨ!」
「もちろん、ゆびきりげんまんね」
「うそついたら針千本飲ませて地球の裏側まで飛ばすアル!」
「ちょっと待って急にバイオレンス」
やったネ! 口元にご飯粒をつけながら、無邪気に喜ぶ姿にまなじりを垂らしていると、新八くんが窘めるように続けた。
「こら神楽ちゃん。凛子さんも、神楽ちゃんも銀さん同様甘やかさないでいいですからね」
「俺同様ってなんだよ」
「そうさね。凛子、特にこの男なんかに貢いだって、しょうもない結果は見えてるよ」
酷い言われように、銀さんに視線を向けると、ちょうど良く目が合った。
ほんのりと赤い目元。心なしか、膜を張ったように潤んだ瞳――頬杖をついているのが、気怠げにも物憂げにも見えて、妙に色香を放っていた。
吟醸の香りのように、絡み合う、酩酊感……。
お登勢さんの言葉に目敏く反応したのか、眉を上げ細めたまなこで撫でられるように見られて、わたしは思わず唇を隠す。
「なに、凛子は俺に貢いでくれる予定だったわけ?」
新八くんが咄嗟に反応する。
「凛子さん、それだけはやめてください」
「マダオに貢いだらこの世の終わりネ」
「やあね、貢ぐわけないじゃないですか」
ゆうるり手を振ってみせると銀さんはケッと毒気づいて、前を向いた。
――びっくりした。
先程の視線は気のせいだと言い聞かせて、わたしは火照った頬に、こっそり手を当てた。
「で?」
銀さんは思い出したように訊ねてきた。
「なんです?」
「どこで働くんだ? 甘味? でにぃず? それとも、すたあばっくす?」
「全部銀さんの行きつけじゃないですか」
思いつく限り挙げられる甘党御用達のお店に、日本酒を煽りながらくすり笑みを漏らした。
「そういえば、お聞きしてなかったですね」
新八くんが次いで言う。
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「言ってたかもしれねぇが、その時多分人生どん底すぎて聞いてなかったわ」
「すみません、僕もお通ちゃんのライブのことでいっぱいいっぱいで」
そう、あの日。思い掛けない幸運が舞い込んで、すぐに、働き口が見つかった。そのまま帰って色々話したような気がするのだが、銀さんは社長椅子で虚ろな目をしていたし、新八くんは踊っていた。
神楽ちゃんはというと、「新八が煩くて押入れに籠ってたアル」とジト目を新八くんに向けた。
そういえばそうだ。いつものことすぎて、わたしもわたしで流してしまったのだろう。
「あんたらは揃いも揃って」
お登勢さんが煙を吐き出しながら肩を竦めた。
「で?」
再度促されて、わたしは口を開く。
「真選組です」
立ち寄らば大木の陰、とはよく言ったもので。
「これで一件落着ですかね」
なんて、続け様ににっこり笑みを讃えて言えども、だれ一人、なにも聞いておらず。
目の前の三人は時が止まったかの如く、は? とわたしを見たまま固まっていた。
「あの、銀さ――」
「なァァァにィィィイイイ!?」
地響きのような唸り声が、かぶき町に響き渡る。
般若の形相を浮かべる三人に、思わず目をパチパチと瞬かせて、それからわたしはプッと吹き出したのだった。
