第一幕 第六話

 それからまた日が経ってしまった。早く早くと思えども、そう現実は上手くいかないのが世の定めみたいなもので、仕事も暮らす場所もまったくもって見つからない。
 かぶき町と言えど、わたしのような後ろ暗い人間はなかなか相手にしてもらえるところはない。戦争が終わって何年も経っているのに、このご時世で戸籍がないと言うのが一番の痛手だろう。
 いっそのこと、やはり吉原にでも行くか……と腹を括り始めているが、その度に先生の顔と銀さんの言葉が浮かんできて、踏ん切りが付かないでいた。
「本当にごめんなさい」長々と居座る女がそう謝ると、銀さんは「なにがだ」とジャンプを読みながら惚けてくれる。
 どれだけ優しいんだか。身に染みる優しさと自分の情け無さに泣きたくなりながらも、それはどうにか堪えるのだった。

 ――ピンポーン。
 万事屋の依頼もなく、落ち着いた昼下がり。銀さんはジャンプを、神楽ちゃんはドラマを、新八くんはアイドル雑誌、そしてわたしは求人冊子。各々がそれぞれのものに没頭していると、ドアベルが鳴った。
「おい、神楽出ろ」
「今いいところアル」
「新八」
「……」
「って、イヤホンしてて聞いてねェし」
 ジャンプから目を上げた銀さんと視線が絡み合う。じい、と物言いたげな瞳で見つめられて、わたしは息を吐き出した。
「見てきます」
「おっさすが凛子気が効くねェ。下のばあさんだったら追い払って」
「無理ですよ、命は惜しいです」
 まあ居候だしね、と胸の中で唱えながら立ち上がって玄関へと向かう。
 ピンポーン、もう一度ベルが鳴った。と思えば連続でピンポンピンポンピンポンとけたたましい音を奏で始めた。
「はいはい、今出ますよ」
 耳を手で押さえながら引き戸に手を掛ける。
 そして一息に戸を開けると、白いよくわからない物体が目に飛び込んできた。
「あのぉ、銀時くんいらっしゃいますか」
「しゃ、喋った……」
 ギョロッとした大きな目、黄色いくちばし、真っ白な身体。まさしく――
「オ○Q……?」
「オバ○ではない! 桂だ!」

「桂さん、どうぞ」
「なにを言ってる。そいつはエリザベスだ」
 白い物体に茶菓子を差し出すと、横の男性が口を挟んだ。黒い肩甲骨まで伸びたストレートの髪、銀さんとはタイプが違うが、整った顔立ち。どうやらこちらが本当の桂さんらしい。
 はあ、と相槌を打って、白い生き物と男性を交互に見遣る。
 なにやら突っ込みどころが満載ではあるが、失礼しました、と頭を下げると、銀さんが「謝る必要ねェから、無視しときゃいいから」と吐き捨てた。
「しかし銀時、お前はいつの間に女子おなごを娶ったのだ?」
「こいつは嫁じゃねぇよ。期間限定の居候だ」
「お主、名はなんと申す」
「はあ、東雲凛子と申します」
「凛子殿。僕、銀時くんの親友の桂小太郎という者ですが、ぜひ結婚式の際には友人代表のスピーチを……」
「だから話聞け! 結婚式してもお前には絶対スピーチは任せねぇからなむしろ呼ぶか!」
「ちょ、待っ、髪の毛待っアァァァアアアッ」
 キューティクルの髪を掴む銀さんと悶絶する桂さん。流れについていけず、呆然として二人を交互に見つめるわたしに、白い生き物――エリザベスは≪いつものことです≫とプラカードを掲げてくれた。こっちもこっちでなにかと問題があるが気にしてもいられない。
「桂さんが来ると、相変わらず賑やかですね」
「むしろなんか暑苦しいアル。一刻も早く帰って欲しいネ」
「まあまあ、神楽ちゃん……」
 桂さんが手土産にと持ってきた茶菓子を頬張りながら、新八くんと神楽ちゃんの二人は言った。
 二人の言い様だと、桂さんとエリザベスの来訪は珍しいことではなさそうだ。
「よくいらっしゃるの?」
 小首を傾げて訊ねると、神楽ちゃんは口の周りに菓子のかすを付けて、うんざりしたような声で続けた。
「よく、どころじゃないネ。しょっちゅう来るアル」
「街中でも、なんだかんだ二日に一回は会うしね」
「仲が良いってことかしら」
「そんな良いもんじゃないネ、あれは腐れ縁ヨ」
 未だにくだらぬことで言い争う二人を横目に少年少女たちは慣れている様子で菓子を食べる。桂さんがどんな人かもわからず、取り残されたようなわたしは肩を竦めてお茶を淹れに台所へと立った。
「……して、銀時、先日捕縛された志士を知ってるか」
 やかんが鳴き始めた頃、同じくして居間から桂さんの声が聞こえてきた。
 コンロを止めて、やかんを火から下ろす。戸棚から茶葉を取り出して、急須にスプーン二、三杯を入れると、ゆっくり熱湯を注いだ。香ばしい緑茶の香りが鼻腔を擽る。
 次いで流れるような動きで、神楽ちゃんにはホットミルクの用意をする。
 その合間にも話は続いていた。
「だれだよ。お前らの仲間なら山ほど捕まってるだろうが」
「俺らと一纏めにするでない。礼儀のなってない奴らが粗相をしているのだ」
 声を強張らせる桂さんとはうらはらに、銀さんは興味無さそうに、あっそ、と相槌を打っている。
「で、その男だがな、――の折に西の農村で、俺たちが――なった――だ」
 桂さんは声をひそめたのか、肝心なところがうまく聞こえない。
「あー、だれだっけな」
「覚えておらんのか銀時」
 茶葉を少し蒸らしている間、彼らの会話に耳を傾ける。
「綺麗な姉ちゃんなら覚えられんだけど野郎はなぁ」
「ふざけるでない。最近では寺子屋の師範をやっていた男だ」
 ――寺子屋……。
 今度はハッキリと聞こえてきた言葉に、わたしは唇を噛み締めた。
 そのあとも続けて桂さんはその男の様相を挙げていき、やっとの思いで銀さんは要領を得たように、相槌を打つのが聞こえた。
 蒸らしの頃合いを見て、湯飲みにそうっとお茶を注ぐと、緑色の液体がゆらゆらと揺れていた。
 大事な話の最中にお茶を届けるべきかは少々憚られたが、意を決してお盆に湯飲みを並べた。
「で、そいつがどうしたんだよ」

 台所から居間へ、銀さんの声が次第に大きくなる。
「ああ。その男の粛清が決まったらしい」
 居間へ、踏み入れる瞬間だった。
 背筋に走った稲妻。思いがけず手に力が入り、ひとつの湯飲みから茶が溢れてしまった。
「お茶が入りました」
 しん、と静まり帰った居間に、明るい声を響かせる。
 呼吸を整えて湯呑みを桂さんとエリザベス、銀さんの前に。そして、神楽ちゃんにはホットミルクと新八くんには大人たちと同じく玉露を置いた。
「わぁ、いい匂いネ。マミーが良く作ってくれたアル」
「わざわざ僕らの分までありがとうございます凛子さん」
「せっかくいいお茶請けがあるんだもの」
 二人の言葉ににっこり笑みを返す。
「オイ。神楽、新八」
 だがそこで、湯飲みには手を付けず、銀さんが低い声で切り出した。
「茶ァ持って、ちょっくらバァさんとこ行ってこい」
「なんでアル。今からあっつあつのミルク飲むネ」
「砂糖切らしてんの忘れてたんだわ。ホラ、温かい飲み物に糖分は必要だろ? なぁ新八」
 白々しい言葉を向けられた新八くんは「僕、緑茶ですけどね」と溜め息を吐くが、渋々ソファから立ち上がった。
「ほら行くよ神楽ちゃん」
「触んなよチェリー。ミルクが溢れるだろ」
「標準語! キャラ設定!」
 空気を読んだ新八くんに、ギャアギャアと騒ぎながらも神楽ちゃんが連れて行かれる。

「じゃあ、わたしも」
「凛子、お前は残れ」
 お盆を胸に立ち上がろうとしたところでぴしゃりと言い放たれ、わたしは蛙のジャンプのごとく浮かせた身体を元に戻した。
 階段を降りる音が遠ざかって、銀さんは一口、お茶を飲んだ。
「で、その男はどうなるって」
 部屋には桂さんとエリザベス、銀さん、そしてわたし。お茶を飲んだ後、銀さんは背凭れによりかかって足を組むと、桂さんを真っ直ぐに見た。
 桂さんは先程までの惚けた顔つきは仕舞い込んで、神妙な顔つきで「ああ」と続ける。
「打ち首にされると噂になっている」
「打ち首、ねぇ。テロ起こしたわけでもねぇのに、随分と幕府はやんちゃするな」
「見せしめだろう。近頃は春雨や天道宗に限らず不穏な動きが多いからな」
 彼らの会話に入ることはなく、ただわたしは膝の上で手を握っていた。
 粛清、打ち首、見せしめ――それらの言葉に、喉の奥が焼けるように熱くなり、心臓がけたたましく鳴り出す。くらくらと眩暈がして、呼吸を繰り返せば、かえって血の気が引いていく。気持ち悪い。手のひらを握る、指先の力が強くなる。
「凛子殿、この茶は美味いな。お主の淹れ方がいいのだろうか」
 一口、お茶を飲んだ桂さんがそう言って、こちらを向いた。だが、一瞬にして目が見開かれた。
「おい、大丈夫か。顔が蒼白だが」
「凛子? ……凛子!」
 身体中の震えが止まらなかった、カチカチ歯が鳴る。
 顔を覗き込まれて名前を呼ばれるが、声が出ない。浅い呼吸を繰り返す。瞬きを何度も、何度も。
「チッ……ヅラ、テメェはとんでもねぇ爆弾を持ってきやがったな」
「なにが起きているのだ。あの男と凛子殿は……」
「今、その話はあとだ」
 上手く息ができない。
 落ち着かなきゃ。

 ――落ち着け。
 ――……落ち着け!
 そう思うのに、上手くいかない。

 ――苦しい。
 ――苦しい苦しい苦しい苦しい。

「凛子、俺がわかるか」
 銀さんが肩を掴んで、目を合わせてくる。
 震える唇を噛みしめて、かぶりを振る。
「ぎん、さん、わたしっ」
 どうしよう。それは言葉にならなかったが、銀さんは眉をひそめて、「わかってる」ひと言告げたあと、背中に手を添えてくれた。
「落ち着け、ちゃんと息を吐くんだゆっくり」
「ここにガスマスクならあるぞ」
「テメーはなんでンなモン持ってんだよ!」
「いやなに、近頃は変な毒ガステロが流行っててだな」
「んなの聞いたことねーよ! 物騒なモン持ち歩いてんじゃねェ!」
 粛清、打ち首、見せしめ――言葉が反芻する。
 息が苦しい。目の前が霞んで、二人のギャーギャーと騒ぐ声も、いつの間にか遠のいていく。
「……イ! 凛子!……ろ!」
 深い川底に沈んでいくように、少しずつ目の前から光が消えていった。

 ――せんせい……。

 

.
.

「気が付いたか」
 目を開けば、見慣れた天井が目に入ってきた。
 重たい瞼を何度か瞬いて、声がした方を向く。背筋を伸ばして畳の上に正座をしている桂さんがいた。上体を起こすと、グラスに注がれた水を手渡してくれた。
「すみません、取り乱してしまって……」
「なに、気にすることはない。大事はないか?」
「はい、なんともないです」
 あのあとわたしは気を失ってしまったらしい。
 ごくり、グラスに口をつけると、こびり付いたような気持ち悪さが不思議とすっきりした。
「わたしはどれくらい意識を失っていたんでしょう」
「そうだな、半刻くらいか」
「半刻……そうですか、本当にすみません」
 繰り返し謝るわたしに、桂さんは本当になにも気に留めていないような涼しい面持ちで「頭を上げるんだ、凛子殿」と言った。
「銀時が下へ気付け薬を貰いに行っている。今に戻ってくるはずだ」
「お手数、お掛けします」
 それでも、口から出た声は酷く弱々しい。
「おい、ヅラァ」
 桂さんの言葉通り、銀さんはすぐに戻ってきた。ガラガラという戸の音と、銀さんの声が聞こえてきて、グラスの縁を見つめていたわたしは視線を上げた。
「凛子殿なら目を覚ましたぞ」
「銀さん、すみません」
「ああ。これバァさんから、顔色は大分良くなったみたいだが、一応飲んどけ」
 部屋に入ってきた銀さんに、粉末状の漢方薬を手渡されてこくりと頷く。
 先程頂いた水を口に含んで、薬をそこに開けると、鼻を刺すような苦い味がした。思わず顔を顰めていると「お子ちゃまだねぇ」と銀さんは鼻で笑った。
「あの、エリザベスは?」
 真っ白なオバ○の姿がどこにもない。桂さんは彼のことを気にかけてもらえたのが嬉しかったのかどこか鼻高々に返す。
「あやつは仕事があるので先に帰らせておいた。こう見えて忙しい身でな」
「テロリストがなに言ってんだ」
「テロリストではない、志高き攘夷志士だ」
 ――攘夷志士。
 桂さんの言葉に、思いがけず、睫毛を揺らす。
 言葉を失くしたわたしに、桂さんはしまった、というような顔をした。それがどこか滑稽にも見えて、眉を下げて大丈夫だと笑みを向けた。
「桂さんは、あの人のことをご存知なのですね」
「ああ」
「あの人は、攘夷志士だったのですか」
 訊ねると、彼は少しばかり間を空けたが、強く頷いた。
「……そう、ですか」
 目を伏せる。
「だが、凛子殿。奴はッ」
「いいんです。わかっています」
 桂さんが言おうとしたことを察して、やんわりとそれを制すると、両手でグラスを包み込んで、わたしは続けた。

「あの人は、わたしの光でした」

 恐ろしい浮遊感のあと、目を開けば、わたしは温かい布団の中にいた。
 ――おや、気付いたかい。
 優しげな面持ちをした男の人がすぐそばにいて、桶の中で白い手拭いを絞っていた。それを絞り終わるとわたしの顔をゆっくりと、丁寧に拭い、再び桶の中へと戻した。
 ――わたし、
 ――川に浮かんでいたから、驚いたよ。
 ――川に?
 ――ああ、昨晩、風が心地良いからと川縁を歩いていたら、君を見つけたんだ。
 ほんの先程まで闇に包まれていたというのに、まるでいつの間にか温かな日だまりに連れてこられたかのようだった。
 ――よくなるまでここにいるといい。
 ――そんな、わたし。
 ――詳しいことは、話したくなった時に話せばいい。今は体を休めなさい。
 ――ありがとう、ございます。
 不思議と恐れは遠のいて、次第に重たくなる瞼を閉じた。わたしは聞こえてくる蝉しぐれに、身を委ねていた。

「川に浮かんでいたわたしを助け、道を照らしてくれたのは、あの人でした」
 ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
 銀さんも桂さんもなにも言わずに、静寂の中でただわたしの言葉を聞いていた。
「どこの馬の骨かもわからないわたしを、あの人は側に置いてくれました」
 頭の中で、ぼんやりと声が響く。
 ――どうするか考えるんだ。答えが出るまではここにいていい、焦らなくていいから。
 人は、声から忘れていくという。
 前までははっきりとその音色を思い出すことができたはずなのに、今はもうそれすらもできない。
 それでも、声が体中染み渡って、胸の奥をきゅう、と締め付けていく。
 ――それで、出た答えがそれか。わかった、こうしよう。君はこれからこの寺子屋の女中見習いだ。私の代わりに飯炊きをし、昼間は子どもたちの相手をする。もちろん、稽古の合間などでいい。
 暑い夏の日。照り付ける太陽、煩いほどに蝉が鳴いていた。
「誇れることもなにもないわたしに、堂々と前を向いて歩くことを教えてくれたんです」
 手の力を強くする。グラスを強く握りしめるあまり、掌は血の気が引いて白んでしまっていた。
 中途半端に生きてきたから、なにも誇れることなんてない。そう言ったわたしに、あの人は、目を細めて手を伸ばしてきた。もういい大人だというのに。まるで子どもを慈しむように、頭を撫でたのだ。
 ――凛子さん、十分君は魅力的だ。あの子たちを見てごらん。子どもって言うのは正直でね、嘘か真かを見分ける天性の素質を持っている。大人になるにつれて、人間が失っていくものだ。そんな彼らが君を慕っている。君は〝真〟だ。
 心臓がドクドクと煩い。身体中の血液が滾り、駆け巡っていく。
「攘夷だとか悪だとかそんなの、わたしには、わかりません。どうでもいいんです。あの人は、あの人でしかない。なのに……」
 ――すまない。
 男たちに連れ去られていく背をわたしは眺めることしかできなかった。
 夏が満ち、蝉が命の残りを惜しむように、ミーンミーンと鳴く声が高く晴れた空に響いていた。
「あの人がなにをしたって言うの? わたしは、わたしはっ……」
 次第に声が大きく荒くなる。

「まだ、お礼もなにも言えてないのに!」

 喉の奥から込み上げてくる思いに、唇を噛み締める。
「どうしよう、どうしたらいいの、」
 ――先生が死んじゃう。
 堰を切ったように涙が溢れ出て、睫毛を濡らす。目の前は滲み、ぼやけてよくわからない。
「会いたいの……」
 銀さんや桂さんに言っても仕方ないとわかっているのに、込み上げてくる想いは止められない。手の甲で涙を拭えど、ポロポロと滴り落ちてくる。
「あの人に、会わせて」
 どうか、最後に。この口で、あの人に、伝えなくてはならないことがある。あの人が、わたしに光を与えてくれたように――……。
 嗚咽に満ちた室内。二人は口を開かない。
 ザッと畳をする音がして、俯いていた顔を上げると、桂さんが立ち上がり、銀さんの元へと歩んでいくのが目に映った。
「凛子殿、そなたの涙はしかと受け取った。ならばこの桂小太郎が助太刀致そうではないか」
「攘夷志士のオメーが出るとややこしくなっから黙っとけ」
「しかし……」
 言葉を詰まらせる桂さんに、銀さんは片目を瞑って頭をガシガシと掻いた。
「ったく、仕方ねェな」
 そして、そう言いながら、のっそりとわたしに背を向ける。
 ぼやけた視界を瞬きでなんとかはっきりさせて、その背を眺める。
「凛子の得意料理のふわとろおむらいすってやつで手を打ってやるよ」

 ――これは良いな。卵は半熟でふわふわ、中のご飯は酸味と甘みが絶妙で、こんなに美味いもの、初めて食べた。

 背を向けて首を捻る銀さんと、あの人の声が、姿が、何故だか姿が重なった。
 溢れ出た涙は、まるでしとしとと止むことを知らない秋雨の如く、頬を伝ってシーツにいくつもの染みを作った。