ヴーン、と素早くモーターの回る音がする。軽やかなようで重々しい音だ。
 ヴン、ヴーン……自我を有するかのような不規則な音。やがて止み、濃密な静けさが訪れる。息を吐くことすら億劫になるほどの、それは夜の静けさだった。静謐とはほど遠い、闇冥の音だった。次第に新たな音がそこに宿る。カチャ、カチャ、カラン、金属の重なりあるいは軋み。カチャ、カチャカチャ、カラン……。
 カチャカチャカチャ、カラン――。
 そこで、さらに先ほどのモーター音が伏せた床越しに響き始める。ヴーン、ヴーン、繰り返される不気味なシンフォニーに、ナルミユウヤは寝返りを打った。
 はじめて東京に出てひとり暮らしを始めた1Kの部屋は、値段の割に立地もいいし内装も整っていることからネットで見つけて即決した部屋であった。駅から徒歩十分、大学へも自転車を使えば五分とかからない。閑静な住宅地、下の工務店が管理をしている雑居ビルの二階。ときおり害虫が出ることをのぞけば、住み始めてからしばらく経つ今でも、満足のいく住居であった。しかし、どうやら都会のオアシスであった我が家の隣に、新たな住人が越してきたようだ。せっかく夜勤のない金曜日、朝まで思う存分寝られると思っていたのに。
 ヴーン……ヴーン……。ミキサーだろうか、なにかを撹拌する、朝であればなんとも清々しいものだが闇夜にはいささか不釣り合いの韻律。眠りにつこうとする隣人の意識を逸れさせるにはうってつけだ。
 長らく同じ階に住民はいなかったため、これほどまで床や壁が薄いことには気がつかなかった。
 そろそろベッドでも買うべきか。ヴーン、ヴーンと繰り返されるモーター音に、ナルミユウヤはまたしても寝返りを打って、掛け布団を頭まで被った。

 

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2023年3月18日光と影