ゲンガーくうきをよむ

 ガラルの夏はからりとしていて清々しい。ナックルシティ上空で起きているすなあらしをも見渡せるだろう晴天の空を眺めていた私は、「次、エンジンシティですよ」というタクシー運転手の言葉に軽く伸びをして放り出していた鞄を肩にかけた。
「ありがとうございました」と朗らかな声に手を振り、石畳をカツンと鳴らす。
 古き良き歴史を語る蒸気機関の街は、今日も白く青空を彩っている。街の中枢ともいえる繁華街を渡り、昇降機を使ってノースエリアへ。上がってすぐ目の前には時計塔を備えたエンジンスタジアムがそびえる。
「やあ、ローラくん」
 待っていたよ、と私を迎えたのは、燃えるような赤いユニフォームのカブさん。おなじみ、エンジンシティのジムリーダーだ。
「こんにちは、本日は無理言ってご協力いただき、本当にありがとうございます」
「いやいや、こんなのお安い御用さ。ひとまず、案内するよ」
 まなじりに柔らかなしわを刻むカブさんの隣で、マルヤクデも笑みを浮かべている。あなたもありがとう、と頭を撫でるといっそううれしそうに喉を鳴らした。
 さて、そろそろ気になっている人もいることだろうから先に言っておこう。まさにイッシュドリームと称さんばかりの夢の夜を終えて幾星霜。私は再びデボンコーポレーションガラル支社ダイマックス研究部の研究員の座を取り戻した。途中、妙な契約を結ばれそうになったり、パパラッチに追われるというポケウッドセレブさながらの生活を送ったりもしたが、今となってはそれも懐かしい。
 どうやってそれを切り抜けたかというのは追々話すとして、ラボの研究員として復帰した私は再びダイマックスざんまいの日々を送っているわけだ。
 今日はそんなラボの仕事で、先述のとおりエンジンシティを訪れている。カブさんに案内されるがまま見慣れたロビーを過ぎスタジアム内部へ、応接室でもトレーニングフロアでもなく、フィールドへ向かうとすでにダイマックスの光が空に上がっている。
「いいですね、絶好調かな」
 通常は試合中の立ち入り禁止ともあって、風圧と熱気が一気に立ち籠める。額に手を当て軽くひさしを作ると、カブさんが隣でユニフォームを風に遊ばせた。
「そうだね、どんどん成長しているよあの子たちは」
 目線の先にはガラルリーグの覇者である証のユニフォームが。ヨロイじまへ長らく向かっていたチャンピオンが帰ってきたとあり、新たなダイマックスの調査協力を依頼していたのだ。ついすこし前までガラルリーグを目指す、あどけなくて無邪気な子どもだったはずのチャンピオンも、今やガラルじゅうを引っ張りだこ。相棒のエースバーンの背後に佇む姿はすでにその貫禄がにじみ出ている。
「早速、ガラル粒子の測定から行なっていきますね」
 せっかくのチャンスを逃すまいと肩に掛けたバッグを地面に置くと、私は会社から持ち出した機器を設置し始めた。
 今日チャンピオンに依頼をしたのは、ほかでもないあの相棒のエースバーンの調査のためだ。元来発見されているキョダイマックスポケモンは数えられる程度。その中にエースバーンは入っていなかった。しかし、目の前のエースバーンは巨大な火球に乗り、今まさに敵を待ち受ける。耳もピンと立っていたのが長く羽のようにたなびき、かつて見たことのない姿だ。つまりは、キョダイマックス。変異種や亜種であるわけでもなく、その子はまさにダンデを制したうちの一匹。チャンピオンがマグノリア博士からもらったヒバニーから大事に育ててきたポケモンだ。
 この事実を目の当たりにした当時、ダイマックスラボはおろかガラルじゅうに激震が走った。ポケモンがついにキョダイマックス進化を遂げたのか――と。だが蓋を開けてみれば、さらなる仰天が私たちを迎え入れた。
 なんでもチャンピオンはヨロイじまで修行を積む中で、キョダイマックスの極意を師であるマスタード氏から伝授されたというのだ。マスタード氏といったら、ダンデの師でもありガラルの伝説とも言われていた元チャンピオン。東の無人島を買い取り、道場を建ててトレーナー育成に勤しんでいるというのは風のうわさで耳にしてはいたが、そんなかくしだまを持っていたとは思わなかった。そういうわけで、今回、ソニア博士とともにキョダイマックスエースバーンの調査に踏み切ったわけだった。
 そのソニア博士は他の学会発表も控えているため、今日は助手であるホップくんが協力予定である。ジムトレーナーと対峙するチャンピオンを前に、私は測定器をフィールドに埋め込んでいく。地中、及びフィールドより一メートルごとの地点で段階的に計測可能な特別機器だ。さすがに上空は届かないため、ドローンロトムの力を借りる。
「ごめん、ローラさん! 遅くなった!」
 と、それらを設置し終えたところでホップくんの登場だ。いつものデニムジャケットではなく白衣姿が目に輝かしい。
「今から始めるところだよ」
 手にしたアタッシュケースを開き、ソニア博士から託されたであろう機器を広げる横で私も鞄から白衣を取り出して羽織る。
「うわ、すごいぞ。何倍ものガラル粒子が発生してる」
「キョダイマックスポケモンの中でも、かなりの値ね」
 ノートパソコンに映し出される測定数値に、ホップくんの興奮も止まらないみたいだ。かくいう私も、肌がゾワゾワしている。
「まだダイマックスには、ガラルには多くの謎が残っているのね」
 キョダイマックスエースバーンが火炎ボールを蹴り飛ばす。凄まじい熱気、そして突風。白衣が捲れ上がるのもいとわず、パソコンと空を飛ぶロトム、そして地面に刺した測定器をひとつひとつ目視で吹き飛ばされていないか確認しながら調査を進めていった。
 その後、カブさんとチャンピオンの試合も測定し、試合時間は一時間とかかっていないというのに、終わるころにはホップくんも私も、「ぼうふう」に巻き込まれたのではないかというほど満身創痍の状態であった。
「改めて、驚異的な威力のようだね」
 私たちを迎え入れたカブさんが思わず苦笑するほど。ジムトレーナーの方に濡れタオルをお借りして埃や煤だらけになった顔を拭うと一気に白い面が消えてしまった。
「おそらくチャンピオンの育成――つまりエースバーンの育ち自体が実に優れているという点もあるとは思うのですが、野生のダイマックスポケモンにはない数値でした」
 それでも、心は爽快。キランッと輝きを放たんばかりの気持ちで告げると、カブさんはふむとうなずき、私たちをミーティングルームに連れて行ってくれた。
「ひとまず、データを二つにコピーしてそれぞれ研究所に持ち帰ろう」
「了解、オレとソニアとマグノリア博士で解析して、結果は一週間後に持ち寄りでいいんだよな」
「うん。来週は研究にすこし余裕があるから、私がそっちに向かうよ」
 示し合わせたとおり、パソコンからコピーデータをメモリスティックに転送しているあいだ、二人で撮影した写真を確認する。普段エースバーンが持っている火球の何十倍もの大きさのそれは、レンズを通しても驚きの大迫力であった。
「それにしても、もうすぐ学会があるのに協力してくれて本当にありがとう。ソニア博士にもお礼を伝えてね」
 今ごろ、研究室に篭って鬼の形相でモニターと睨めっこしているだろう姿を想像して眉をさげる。いいって、とホップくんはからりと笑った。
「もとはといえば、ソニアから話を持ち出したんだしな」
「今しかないよ! って朝一番に連絡をもらったときは、心臓飛び出るかと思ったもの。でも、本当に声かけてもらえてよかった」
 というのも、現在ガラルではマクロコスモス社の独壇場だった市場が大きく移り変わっている。ポケモン製品ならびにダイマックス製品の安定した供給のため、我らがデボンコーポレーションもいよいよ大手を振るって参入となったわけだ。ダイマックスバンドに関しては、マグノリア博士とマクロコスモス社の共同開発品である現行版が、既に叡智を集結した機能が備わっていることと特許も取得済みであることから、今後もリーグ公式バンドとして用いられるだろう。
 だが、現在まさに製品化に向けて突き進んでいるパワースポット探知機能のついたリストウォッチ型ガジェット端末や、その他ダイマックス戦専用に耐久性に優れたボールや試合中のゴーグル、あるいは観客とフィールドを隔てるシールドなど、デボンとしてやれることは大いにある。とはいえ、完全な独立参入といったわけでなく、各方面との連携をしながらにはなるが。
 そういった経緯から、今回、ローズさん筆頭のマクロコスモス瓦解後、ソニア博士と研究を進めていたうちに話が回ってきたわけだ。
 このキョダイマックス現象を、すこしでも科学的に理解することが今後のガラルの発展に繋がるかもしれない。なにより、未知なるキョダイマックスに出会うチャンスだ。
 そんな昂揚を知ってか、ホップくんは頬をゆるめて一緒になって喜んでくれる。
「そういえば、ホップくんはチャンピオンと一緒にヨロイじまに行ってたんだよね?」
「ああ、ちょうどダイスープに使う材料を集めるのに協力したんだ」
 ダイスープ? その言葉にひっかかる。
「キョダイマックスは、ダイスープっていうのがかかわっているの?」
 ホップくんはやべっという顔をした。
「大丈夫、機密事項があるのはわかってるから」
「ゴメンな、ローラさん。島への密猟者防止のために、アイツと詳しいことは一切明かさないことになってるんだ……」
 なんていい子たち、思わず心の中で涙を拭う。
 今回、この新たなるキョダイマックス現象に関しては一般的な報道がまだ規制されている。たしかにあの力を見れば、だれしもが手にしたくなるはずだ。そしてその方法を苦労することなく、かつ誤った形で人々が受け取ってしまったとすれば、その後の世界は目に見えている。
 今でさえ世界各国ポケモンの密猟、あるいはエネルギー資源の独占、略奪などが依然横行しているというのに……。おそらくすでにその点に関しては、リーグ委員長であるダンデのもと対策が打たれているだろうから、私が心配することではないけれど。
「でも、私もキョダイマックスの極意知りたい……」
 気がつけばつい本音がこぼれていた。ホップくんが隣で笑った。
「やっぱ、ローラさんはローラさんだな!」
「やっぱ、ってなによ」
 年下の子相手に大人気ないぞと突っ込まれそうだが、走り出した足は止まらないのと一緒でヨロイじまへの気持ちが大きくなる。
「ローラさんもヨロイじまに行けたらいいのにな」
 唇を尖らせる私にホップくんは言う。
「それ、許可が下りたら、すぐラボから飛び出して、真っ先にブラッシータウンに向かうのに」
「すげぇその光景が浮かぶよ」
 でしょ? と今度はしたり顔をして、止まっていた写真整理を再開する。
「アニキに言ったらなんとかなりそうなんだけどなぁ」
「ダメダメ、そういう職権濫用は今どき一面ニュースになるから」
「でも、キバナさんはとっくにヨロイじま向かってるってさ」
「マジ?」
「マジ」
 まさか先を越されるとは。今度はハンカチを噛み締めたくなるのを堪えて、「ま、ジムリーダーだもんねぇ」とつぶやく。
「ダイマックスラボとしても、ヨロイじまの調査はお願いしてるんだけど……」
 いかんせん、リーグ本部へ依願するにも道のりが長い。ソニア博士と協力体制にあるとはいえ、デボンはいち企業。優先されるのは国家の研究機関だ。ガラル支社、あるいは本社から、リーグ本部へ正式な許可依頼がお願いできる環境も整えなくてはならないし……。企業だからこそ予算云々があるのだ。さらに、ヨロイじまはマスタードさんの所有する島。マスタードさんが否を出せば当然不可能だ。個人の土地に企業が入り込むというのは、非常にデリケートな問題である。
 うんうんと唸り始めてしまった私に、ホップくんは言った。
「ローラさん、ダイゴさんに頼まないんだもんなあ」
 すっかりお仕事話で終わってしまうところだった。その名前を思い出し、すこしだけ顔が赤くなって、「私生活を仕事に持ち込みたくないから」ともごもご呟くと、ホップくんは私をからかうでもなく、ローラさんらしいな! と白い歯を見せて笑った。

「やあ、元気かい」
 ばっとタブレットの画面に映った姿に、思わずベッドに飛び込むところだった。どうにか堪えて、前髪を撫でると、彼――ダイゴはつやつやのベスト姿で真っ赤なアスコットタイをふんわり揺らして優しく顔をゆるめた。
 すでにガラルは長い一日が暮れ始めているが、ホウエンは午後のティータイムといったところだろう。
「仕事、平気なの?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょうど役職会議が終わってひと息ついてたところさ」
「ひと息っていうより、今から洞窟に向かいますって景色だけど?」
 彼は、ははっと声を上げて笑った。
「当たり。キミには敵わないね」
「私じゃなくても、だれでもわかるわよ」
 ぷんと唇を尖らせると、彼は手にした携帯を上げて背景がわかるようにぐるり回転してみせる。服装はジャケットを脱いだベスト姿ともあって、午後のひと息をするサラリーマンに見えなくもないが、なぜか背後に見えるのは光目映いオーシャンビューの本社ビルではなく、飛沫をあげる滝と巨大な岩壁。
「ちょうど、新たなメガストーンの情報が手に入ってね。これからその下調べに向かうところなんだ」
「なるほどね。副社長が行うことじゃありません、って周りが慌ててる姿が目に浮かぶ」
 副社長秘書を離れて、早数か月。だが、彼の好奇心旺盛なさまは変わらないようで、安心するような呆れるような、すこしさみしいような。
 彼はまたもやからりとわらうと、きらきらと光を撥ね返し瞬く瀑布を映した。
「案外、本社の人間は冷たいものだよ。おやじに似て、ボクが探究心の塊だってことを理解しているからか、もう諦めがついてるみたい」
 何マイルもの距離を隔ててもそのきらめきを集める髪がきれいで、思わず嘆息がもれる。
 ――ボクといっしょにきてほしい。そんな彼の誘いを断ったことを、ほんのすこし……否、結構後悔してしまう。
「一人で怪我しないでくださいね、副社長サマ」
「怪我したら、ガラル地方の敏腕社員を呼び寄せられるかもしれないけど」
 なんてね、とウインクする姿に胸を撃ち抜かれて、いよいよ両手で顔を覆う。会社から帰ってきて、ボールから放ってやったゲンガーがふよんと浮かび上がり、そんな私の髪を背後から弄ぶ。
「やあゲンガー、キミも元気そうだね」
 ンガッとひと声、得意げに応えて、彼はまたもや部屋の中に消える。そうしてなにを思ったか、ベッドサイドに飾っていた写真立てを持ち出した。
「ちょっと、ゲンガー!」
 ニシシと笑う彼を止めようとするが時すでに遅し。
「……ローラちゃん」
 どうにかそれを奪ったけれど、画面の向こうの彼にはバレてしまったようだ。かえんほうしゃを吹きそうなほど顔が熱い。直接彼を見ることができなくて写真立てを裏返し額に当てて顔を隠した。
「私の元気の源です……」
 写真にはキバ湖の瞳でキャンプをする彼と私の姿が写っていた。最後のワイルドエリア散策で、ガラルらしいことをしたいという彼とポケモンたちとテントを立ててカレーづくりをしたのだ。
「やまおとこ」、「やまおんな」スタイルというなんとも色気のない格好だが、岩に並んで座りカレー皿とスプーンを手に記念に撮ったそれは、二人とも自然な笑みを浮かべている。ゲンガーが私の背後に写り込み、ジュラルドンやメタグロス、ほかにもミミッキュやボスゴドラ、エアームドたちが遊びまわっている。うん、とっておきの一枚。
 寝る前にそれを見て今日も一日頑張った、と自分を労い眠りにつくのが日課だった。その一枚だけではない、パーティーで撮ったお澄ましツーショットも、もう一度向かったキルクスのカフェで二人ホイップだいばくはつなマホイップコーヒーを飲む写真、それから、内緒でロトムに撮ってもらった採掘をする彼の横顔も。
 すると、ゲンガーが余計な気を遣わしてか、それらを掻き集めて手動でのスライドショーを始めてしまった。「もう、ゲンガーやめて!」と悲鳴を上げるが、羞恥からか情けのない声がこぼれるばかり。
「まいったな」
 そんな言葉が聞こえて、すみません、と謝る。いや、と彼は続けた。
「今すぐにでも、ガラルへ飛んで行きたい気分だよ」
 あごを撫でて、そっぽを向く彼の頬はほんのり赤い。彼も同じ気持ちでいてくれているのだ。このあとの仕事をキャンセルして、すぐの便に乗れば……などとすぐに算段し始める彼に、だめですよ、と眉をさげる。
「忙しい身なんですから。それに、いつもしてもらってばかりなので、次の休みに私が会いに行きます」
 ついていくことはできない、と告げたとき、彼はこう言ってくれた。「それでもボクはキミを離したくない」と。本当は時間がほしいと思ったが、彼を離したくないと思っていたのは私も一緒だったみたいで、すべてを忘れるつもりで共に過ごした残りの日々が私の背中を押した。もちろん例のA3の紙は白紙に戻し、最初から肩を並べて、同じ方向を見据え、ツワブキダイゴとただのローラとしてお付き合いを始めることにした。
 当然、互いに仕事があるから、ホウエンとガラルとの遠距離になってしまったわけだけれど、この数か月、それぞれの都合を考慮しながらこうしてテレビ電話をくり返し、うまくやってこれた。だから、この先も私たちは大丈夫だと思っている。
 それでも、会いたいという気持ちに蓋はできない。いたずらっ子のヤバチャのように顔を出しては、ふよふよと胸のあたりをくすぐっていく。
 自分勝手に突き離して、それでも離れてほしくなくて、私の中の女の部分はなんと傲慢なんだろうと情けなくなる。どうにか押し込めて、次の休みを確認しようとデスクの端に置いたカレンダーを手に取ると、「ローラ」名前を呼ばれた。
「してもらってばかりだとか、なにもできていないとか、あまり気にしないでほしいんだ」
「でも……」
「キミもボクもいい大人なのはわかっている。でも、いい大人だからこそ、動けるほうが動けばいいと思うんだ」
「……あなたがそう簡単に動ける人間じゃないから言っているんです!」
「敬語」
 プンスカ照れ隠しに怒りだす私に優しい顔で彼は言う。
「キミが気を遣っているときは、すぐわかるんだよ」
 いよいよ居たたまらなくなって肩を落とすと、彼はもう一度私の名前を呼んだ。
「ローラ、ボクはキミのすべてが見たいんだよ」
「……また、そういうこと言って」
「ガラルの子は、情熱的って聞いていたんだけどな」
「情熱的でいてほしい?」
 サアサアと水が滴る音がする。激しいはずなのに、今だけはとても穏やかに聞こえた。きらきら瞬く滝を背に抱え、「ありのままのキミが一番」やわらかな微笑を浮かべる彼にはあとため息をつく。
「ダイゴにはかなわないなあ」
「なんたってボクがいちばん――」
「つよくて、すごい」
 もんね? と表情を緩めると、今度は屈託なくプラチナブルーの髪を揺らし、白い歯をのぞかせた。
「今日、採れた石をキミのもとに持っていくよ」
 こういうところ、本当に尊敬する。彼はたいようのいしみたいだ。……って、すっかり石マニアに感化されてしまっていることに気がついて自分に目を回したくなる。カレンダーを置いて、その横に飾られている青い鉱石を眺めた。
「メガストーン、見つかるといいね」
「ああ、ボクの直感が騒いでいるから、正直期待しているんだ」
「服、着替えるのも惜しいくらいに?」
「まあね」
 怪我しないでね、と告げて、通話を切る準備をする。
「ローラ」呼ばれて顔を上げれば、画面越しに目が合った。
「ボクはキミが大好きだよ」
 ホウエンの男は情熱的って、雑誌で読んだことあったかしら。口もとをもごつかせてその言葉と熱とを抱きしめているとゲンガーがまたもややって来て、私の周りを小躍りし始めた。ぷはっと吹き出した彼にいよいよ顔を真っ赤にして、「もうゲンガー! いい雰囲気だったでしょう!」と叫ぶまで五秒とかからなかった。
 さて、この一週間後、データ解析に尽力し徹夜明けのボロボロな姿でブラッシータウンの研究所へ向かった私を、まさか爽やかな笑顔が出迎えるとは、だれもが想像していなかったことだろう。